韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞92年の歴史の中で、今年、アジア映画として初めて作品賞を受賞した。アジア映画のおもしろさに今世界が注目している。新型コロナウイルスの拡大で外に出歩きづらい昨今、自宅に籠もってアジア映画三昧はいかが? ここではフィリピン、タイ、シンガポール、ベトナムの名作を紹介する。
◆フィリピン
「フィリピンは同性愛に不寛容なカトリック教徒の国でありながら、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)を取り扱った映画が多く作られています」(中国人映画ジャーナリスト・徐昊辰さん、以下「」内同)
『ダイ・ビューティフル』(2016年)がその1つ。トランスジェンダーの男性が自分のアイデンティティーに悩みながらも、ミスコンの女王となる半生を描いている。
「フィリピンはスペイン、アメリカの植民地だったこともあり、表現に反骨精神があるんです。だから若い才能が育ちやすい」
一方で社会格差も目立ち、社会問題に切り込んだ作品も評価が高い。2016年に製作された『ローサは密告された』(ブリランテ・メンドーサ監督・59才)はマニラのスラム街で麻薬を売って生活をする女性の物語だ。
「その生々しい描写がカンヌで評価され、主演のジャクリン・ホセ(56才)が女優賞を獲得。フィリピンのいまがわかる作品です」
◆タイ
タイでは、ストーリーが明快で、わかりやすい映画が好まれる。たとえば生身のアクションで一躍スターとなったトニー・ジャー(44才)の『マッハ!!!!!!!!』(2003年)など、アクション映画も世界中で公開され、日本でも大きな話題に。
一方で、2000年代初頭よりアート系映画の鬼才・アピチャッポン・ウィーラセタクン監督(49才)が登場。
2010年に『ブンミおじさんの森』でパルムドールを受賞し、新風を巻き起こした。
◆シンガポール
「1990年代まで、自国の映画はほとんど製作されていなかったシンガポールに、変化をもたらしたのは、エリック・クー監督(54才)だ」と、日本映画大学教授の石坂健治さん。1997年に発表した長編がカンヌ映画祭で上映され、大きな注目を集めたのだ。
「彼の作品は、ベネチア、ベルリンでも上映されました。それはシンガポール映画初のことです。また親日家で、松田聖子さん(58才)のファン。彼女と斎藤工(38才)を起用した『家族のレシピ』(2018年)も話題になりました」
同作品は欧米、アジア各地40か国以上で上映されている。
◆ベトナム
フランス映画の影響を受けたトラン・アン・ユン監督(57才)の遺伝子を受け継ぐ監督が続々と登場している。日本映画大学学部長の石坂健治さんはこう語る。
「アメリカ生まれのヴィクター・ヴー監督(44才)は、抒情的な映像を撮り、第二のユン監督の呼び名も高い」
ヴー監督の『草原に黄色い花を見つける』(2015年)は、1980年代のベトナム中部の村に生きる兄弟と幼なじみの淡い恋を描き、詩的な世界観が見どころだ。
※女性セブン2020年4月9日号