新型コロナウイルスは中国社会に大きな影を落としたが、変わらなかったものもある。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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封鎖されていた武漢が条件付きながら解除の方向に向かっている。すでに路線バスが動き始めタクシーも営業を開始した。これに先駆け中国全土を覆っていた重い空気も緩み始めた。各都市は、「まるでパニック映画のワンシーンのようだ」と表現された閑散とした雰囲気から解放されつつある。
だが、そんな死んだようになった社会の中でも活発に動き続けていたものもある。例えば、習近平国家主席が大好きな「反腐敗」である。
3月24日、国家監察委員会は、2020年の年明けから2月29日までの期間に全国で処分された官僚の数を公表した。その数、なんと1万6965人であった。つまり、新型コロナウイルスの感染拡大で全国が呻吟するなかで、毎日282件を上回るペースで処分が繰り返されてきたというのだ。ちなみに処分された人数にすると1日414人とさらに跳ね上がる。
その処分の基準となったのが「8項目の規定」である。かつて習近平政権がスタートしたばかり頃に「贅沢禁止令」とも呼ばれた規定だ。当時は専ら幹部たちの贅沢な飲食がメインのターゲットだったが、今回の処分の中身を見る限り、それは「官僚主義」、「形式主義」にターゲットが移っているようにも思われる。なかでも圧倒的な人数なのが職務を履行する上での問題である。経済発展や生態保護の問題で、やっているふりをして仕事をしないサボタージュ、責任を持って仕事をしない、デタラメをやるといった問題だ。
厳しすぎる習政権下で地方の官僚はすっかりやる気を失っているというが、まだまだ飴を与える空気は醸成されていないようだ。