【書評】『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』/君塚直隆・著/中公新書/900円+税
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
エリザベス女王(二世)が即位したのは一九五二年。今年在位六十八年を迎え、イギリスの君主、さらにはイギリス連邦王国(十六ヵ国の主権国家)の女王陛下であり続ける。世界を飛び回る歳月を送った一方、国内政治状況の把握にも努めてきた。今も議会会期中、週一度は首相と面会して政治課題を話し合うといい、彼女に仕えた首相は歴代十四人におよぶ。
二〇一七年、ブレグジット(EU離脱)の締結交渉が大詰めを迎えた時期、女王は首相の要請に応えて欧州各国に王族を送り込み、政治外交が円滑に進む下地をつくった。EU離脱をめぐる国民投票は離脱派の僅差の勝利であったため残留派との対立も生じ、女王は融和を図ることにも腐心する。
本書は「史上最長・最強のイギリス君主」の人生をイギリス現代史とともにたどるが、そもそも彼女は女王になるはずではなかった。祖父ジョージ五世の死去により王位継承したのは伯父エドワード八世だった。しかし伯父はシンプソン夫人との結婚(王冠を賭けた恋)を選び、代わって父ジョージ六世が即位、父の死去に伴い二十五歳のエリザベス女王が誕生した。
すでに結婚し二児の母(のち、さらに二児を得る)であった女王は、国際関係の危機や、経済の停滞(英国病)など多くの難問にも直面してきた。「鉄の女」サッチャー首相とは確執も伝えられたが、のちには勲章を授け、葬儀にも参列したのは異例だった。同世代で英国初の女性首相の労苦をよく理解していたのだろう。