【書評】『エンド・オブ・ライフ』/佐々涼子・著/集英社インターナショナル/1700円+税
【評者】水谷竹秀(ノンフィクションライター)
余命幾ばくもないと宣告され、もし何でもいいから希望を叶えてあげると言われたら、何を望むだろうか。美味しい物を食べたい、思い出の地に行きたい、生演奏を聴きたい、桜を見たい……。
そうした思いを、患者に寄り添いながら実現させてくれるのが、京都で訪問医療を行う渡辺西賀茂診療所である。自宅で終末医療を望む人のために、医師や看護師が彼らの家を訪問するのだ。本書は、そこで働く訪問看護師、森山文則に出会った著者が、彼を通して見えた在宅医療の在り方を、丹念なルポで浮かび上がらせている。
2人に1人が癌になる今の時代において、本書に登場する患者たちの最期は実に様々だ。遠方まで潮干狩りに出掛ける女性、自宅でハープの演奏会を開いてもらう男性、家族でディズニーランドに行く女性……。いずれも末期症状なのだが、最期まで生ききる姿は、自由で強く、そして美しかった。
といっても現場は、光の部分ばかりではない。自宅で激痛に苦しむ男性は自殺に追い込まれ、父親の下の世話をする息子は仕事と介護の両立に疲れ果て、決して他人事には思えない。そんな老後を想像しただけで、身の毛もよだつ。