新型コロナウイルスの蔓延で、院内感染の予防の観点から、「新規入院患者の受け入れ停止」を実施している病院も少なくない。また、多くの病院で「面会禁止」の措置が取られ、入院患者の家族が見舞いに行けないケースが増えている。なかでも、緩和ケアを受ける終末期患者は、家族が見舞いに行けずにいると、最悪の場合「看取りに立ち会えない」事態も起こり得る。
そんな終末期患者も「入院先のベッドを追い出される」可能性がある。立川在宅ケアクリニックの荘司輝昭院長が指摘する。
「終末期の緩和ケア病棟は基本的に個室で、他の病棟と離れた場所にあり、動線的に使いやすく感染症病棟に“衣替え”しやすい。すでに都内の民間大規模病院は緩和ケア病棟を丸ごと空けて、数十人単位で受け入れ可能な感染症病棟にする準備を進めています」
患者の行き先は2つ考えられる。まずは病院内の移動だ。渡辺医院の院長で東京大学医学部非常勤講師の渡辺俊之氏が指摘する。
「緩和ケア病棟の患者を他の病棟の空いているベッドに移動させ、完全に空室にした緩和ケア病棟のフロアに、新型コロナ患者を入院させるのです。その場合、終末期の患者は新型コロナのリスクが高いため、終末期患者がいるフロアにウイルスが侵入しないように、徹底的に管理する必要があります」
2つ目に、終末期の患者を退院させて自宅に帰すことも考えられる。往診医や訪問看護師による在宅ケアに切り替える方法だ。このケースでは、患者のメンタル面のケアが必要不可欠となる。
「まだ生きることに望みを持っている終末期の患者さんもいます。それなのに自宅に帰そうとすると、死期が近づいていることをご本人が悟ってしまうケースがあります。自宅に帰す場合、新型コロナを受け入れるから仕方ないと割り切るのではなく、緩和ケア患者のメンタルをケアすることが重要です」(渡辺院長)
※週刊ポスト2020年4月17日号