お笑いコンビ・スリムクラブ(真栄田賢・44歳と内間政成・43歳)の名を全国に轟かせた「M-1グランプリ」2010年大会。その舞台裏で先輩芸人から贈られた、忘れられない言葉があった。スリムクラブの2人が、2010年の晴れ舞台の思い出と、“ラストイヤー”となる今年のM-1にかける思いを語った。ノンフィクションライターの中村計氏がレポートする(全5回連載/最終回)。
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テレビ朝日の1階は、グッズ売り場や各番組の宣伝コーナーが設置され、一般の人も見て回ることができるオープンスペースとなっている。
2010年12月26日、M-1グランプリ決勝当日、その中に、ガラス張りのショーケースに入ったM-1の優勝トロフィーが飾ってあった。真栄田はそれを見つけるなり、内間に、「おれらが今日、持つことになるから、持ってみ」と言った。想像の中でトロフィーを持ってみろという意味だ。真栄田なりのイメージトレーニングでもあった。
「重いか?」
真栄田がそう尋ねると、内間は真顔で言った。
「100グラムくらいですかね」
「軽すぎるわ!」
ただ、真栄田は内間のそんなところが好きだったのだ。
スリムクラブが起こす笑いは他の漫才とやや異なる。他の漫才の場合、客は口を開けて思い切り笑っているものだが、スリムクラブの場合、客は押し殺すように笑い続け、時折、堪えきれず吹き出してしまう。
というのも、特に内間が発するコメントは、おもしろいかおもしろくないかでいうとおもしろくない。でも、笑えてしまう。また、間が非常に長くかつ多いのだが、その言葉を発しそうで発さない雰囲気がなぜか笑える。そう、笑うところではないかもしれないがなぜか笑ってしまうため、反射的にどこか堪えたような笑いになってしまうのだ。
2010年のM-1決勝の1本目で見せたネタで、客は初めてその「スリムクラブワールド」を体感することになる。
真栄田が内間に「あなた……、以前……、私と一緒に……、生活してましたよね?」と間を存分に取りながら尋ねる。
そのあやしさに客はすでにノックアウト寸前だった。それに対し、内間は、口元をゆるませながら、相方の顔をしげしげと見つめること約12秒。おそらく、いや間違いなく、M-1決勝における「間」の最長記録だ。