85才認知症に母の介護をする56才の本誌・女性セブンのN記者。新型コロナウイルス感染症の蔓延により、認知症介護はどのような影響が出たのか。スーパーに出かけた時の衝撃的な出来事とは…?
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3月25日、東京都知事が“重大局面”宣言をしたその日の昼間、私と母はのんびりと桜並木の下を散歩していた。
東京五輪も延期になって世の中は緊迫ムード。母が暮らすサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)から訪問自粛要請もあり、今年は花見どころではないと思っていた。母には何度も電話し、ひとりで散歩に出ないよう言って聞かせたが、「えー!? そうなの? コロナって何よ」と毎度同じ調子。まるで危機感がないのだ。
サ高住は老人ホームと違って外出の制限はしないが、ふらり出て行くのを止めてくれることもしない。だから自粛要請に逆らって母を連れ出し、ガス抜きをしようと思ったのだ。ついでに世の中の状況をしっかり伝えなきゃと。
行先は私が幼少から25才まで家族で暮らした団地だ。見事な桜並木はまだ四分咲き。でも母と並んで歩くと、私も小学生に戻ったような気分になった。途中、昔からあるスーパーを通りかかった。
「懐かしいね。私が小学生の頃、トイレットペーパーがなくなるって噂が流れてこの店に並んだよね、覚えてる?」
昭和48年のオイルショックのときだ。いままさに同じ状況で、当時の記憶が鮮明によみがえった。
「うちは家族3人だから3個しか買えなかったわね」と母も笑った。
直前の出来事を忘れても、半世紀近く前の思い出は共有できたりする。認知症でない母にひょっこり会えるようでうれしいハプニングだ。危機感を伝えられたかどうかは定かではないが、いい花見散歩になった。
懐かしい団地からの帰り、駅前のスーパーに立ち寄った。母の部屋のトイレットペーパーが残り少ないことを急に思い出したのだ。母と私が住む町の店はどこも売り切れだが、少し郊外のこの駅前ならと、ささやかな望みにかけた。
しかし状況は同じ。かなり大きな幅を取ったトイレットペーパーの売り場はガランと空になっていた。