コロナ危機の中で総理大臣と東京都知事の暗闘が繰り広げられている。安倍政権は3月28日に発令したばかりの新型コロナの「基本的対処方針」の内容を改定し、緊急事態宣言で自宅で過ごす国民に不可欠なサービスとして「事業継続を要請する」業種を指定した。そこに百貨店、レストラン、喫茶店などと並んで「理美容」(理容室と美容院)を盛り込んだ。
理髪店は、東京都が事前に発表していたリストでは休業要請の対象、政府のリストでは事業継続要請の対象と真逆の扱いになった。
そうやって準備を整えたうえで、安倍晋三首相は4月7日の会見で「休業させない」と言い切った。小池百合子・東京都知事は直ちに行なうはずだった休業要請を先送りし、政府との調整を余儀なくされ、娯楽施設などへの休業要請が大幅に遅れることになった。
緊急事態宣言には施設の使用停止など一部私権を制限する強い効力を持つが、それを執行する権限は総理大臣ではなく知事にある。
安倍首相がひとたび緊急事態を宣言すると、それ以降、首都・東京の感染封じ込めの全権を握るのは小池氏だ。
しかし、官邸側は小池氏に権限を渡すつもりはなかった。前述の基本的対処方針の改定で規制の“抜け道”をつくり、政府のコロナ感染対策本部は東京都との交渉で「百貨店は休業させるべきではない」「居酒屋の定義が不明」と東京都の緊急事態措置を押し戻そうとしている。さらに西村康稔・コロナ担当相は7都府県の知事に、業者への休業要請の2週間見送りまで言い出す混乱ぶりだった。
「もはや時間の猶予はない。このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後に8万人を超える」
安倍首相はそう説明して緊急事態宣言を出したはずだ。休業要請を2週間見送れば、感染者が激増してしまうではないか。
西村氏の言動からは、官邸が緊急事態宣言を出した本当の狙いが、コロナではなく、“小池の封じ込め”にあったことが読み取れる。
◆首相のメンツは丸つぶれ