「戦後最大の危機」に臨んで安倍晋三首相の混乱ぶりが際立っている。突然の全国一斉休校要請で並みいる大臣たちを驚かせ、唐突にマスク2枚配布を言い出して国民を唖然とさせた。緊急事態宣言をめぐっては「まだそういう事態には至っていない」と渋りながら、一転、発表即日に公布するという場当たり対応で混乱に拍車をかけた。
そんな安倍首相を陰から動かしているとされるのが今井尚哉・総理首席秘書官兼総理補佐官ら官邸官僚たちだ。
経産官僚から「総理の分身」と呼ばれる首席秘書官に起用されて以来8年間、今井氏は常に首相のそばに仕え、昨年秋からは「政策企画の総括担当」の総理補佐官を兼務して国政全般ににらみを利かせる立場に就いた。
「今井ちゃんはなんて頭がいいんだ。頭の中を見てみたい」
首相はその才を高く買い、コロナ対策にあたっても今井氏の献策を採用するといわれる。だが、官僚が分を越えて政治家以上の権勢を振るうのは正常な国のあり方とはいえない。過去、権力が集中した“怪物官僚”が政治を主導して混乱を招いたことは何度もあった。
◆次官交代を「拒否」
平成初めの混乱期、政治腐敗で行き詰まった自民党長期政権を倒して細川護熙連立政権が発足(1993年)。
期待を集めた細川政権がわずか8か月で倒れる原因をつくったのが、当時、霞が関で「10年に1人の大物次官」と呼ばれた斎藤次郎・大蔵事務次官だ。連立政権の中心人物、小沢一郎・新生党代表幹事と太いパイプを持ち、細川首相に国民福祉税の創設を強く迫った。
細川首相の総理首席秘書官を務めた成田憲彦・元駿河台大学学長は舞台裏をこう振り返っている。
「大蔵省は政権発足時から何回も隠密に細川さんに会い、消費税引き上げの必要性を説明した。(中略)細川さんは妥協として、消費税は廃止して福祉のための税金にするということで国民福祉税になった」(日経新聞2012年1月3日付電子版インタビュー)