NHK Eテレ『きょうの料理』への出演でもおなじみの“ばぁば”こと95才の日本料理研究家・鈴木登紀子さんが、「これだけは遺していきたい」という日本料理の極意を伝授する。今回は新型コロナウイルスに関する家族のあり様への思いと、「牛肉とごぼう、豆腐のみそ汁」の作り方だ。
◆家族を思う心が隠し味 何よりの予防薬なのです
新型コロナウイルス感染拡大で世界中が大変なことになってまいりました。日本でも緊急事態が宣言されましたね。高齢者や持病のあるかたは感染すると命にかかわるということで、両方に当てはまるばぁばも、おとなしく蟄居(ちっきょ)生活を送っております。
会社からまっすぐ帰宅するかたがほとんどでしょうし、ご自宅でお仕事をされているかたも多いと存じます。そして子供たちも学校が休校となり、不幸中の団らんといっては語弊があるかもしれませんが、ご家族揃って食卓を囲む機会がぐんと増えたのではないでしょうか?
ばぁばは日頃から「生きることは食べること」と念仏のように唱えておりますが、さらに「ウイルスに負けない体は楽しい食卓から」と付け加えたいと思います。
というのも、外出を避け、自宅にこもる時間が長くなりますと、家族だからこその閉塞感も出てまいります。ほら、昔から申しますでしょう、「亭主、元気で外がいい」と。あれはご主人に限ったことではなく、家族みんなにあてはまるの(笑い)。
“家”は、それぞれが「ただいま!」と帰ってくる場所であり、晩ご飯を食べたりテレビを見ながら、唯一、無防備になれる砦なのです。そして翌日また「行ってきます!」と元気にそれぞれの戦場へ向かうためのベースキャンプでもあります。
ただ、ベースキャンプはほっと居心地がよいけれど、ずっといると退屈ですし、ストレスもたまります。どんなに愛おしい家族でも、ずっと顔を突きあわせていると、見なくていいところも見えて、小言のひとつやふたつ言いたくもなるのが家族ゆえの情。食事の支度がしんどくなることも、もちろんあるでしょう。
それでも、ばぁばはお願いしたいのです。お台所でイライラを見せないこと、ため息をつかないこと。
妻、母、あるいは娘として、家族の安息を守る貴女は一家の太陽なのです。この非常時に、家族の健康を考え、「おいしい!」の笑顔を引き出せるのも貴女だけなのです。
だから、このおこもりの時期を家族揃って切り抜けるために、まずは貴女が心を強くもって、温かくおいしい食事でご家族の体と心を元気にしてあげてください。
今回は、精のつく牛肉とごぼう、お豆腐を使ったごちそうみそ汁をご紹介します。汁ものは“母の味”としてもっとも記憶されやすいお料理。ちゃんとおだしをとって、おみその加減はどうぞご自由に塩梅してください。炊きたてのご飯と一緒にお出しくださいね。
どうか今日も、ご家族揃って笑顔でお過ごしくださいますように。