長らく「娯楽の王様」として君臨してきたテレビが、「広告収入」という目に見える数字によって、その座から引きずり下ろされる結果となっている。2兆1048億円と1兆8612億円。これは、3月に発表された2019年のネット広告費とテレビメディア広告費の数字だ。
1人1台スマホを持つ時代、有名芸能人がYouTubeに進出してゆくいま、テレビの未来は、どうなるのか?
「正直、Netflixの予算はうらやましいです」
そう語るのは、テレビ東京の人気番組『家、ついて行ってイイですか?』のプロデューサーである高橋弘樹さん。
「作り手としてはあれだけの予算で作ってみたい。でもあまり制作費を使ったことがないから1億円もらっても、普段通り使って9000万円返すかも(笑い)」(高橋さん)
頭をかきながらも地上波テレビには地上波テレビの武器があると高橋さんは言う。キーワードは「泥臭さ」だ。
「Netflixは映像や演出がハイセンスで出演者がスター揃いだし、YouTubeに出るのは才能を持つ人が多い。一方で地上波テレビの制作はもっと身近で地に足がついていて泥臭い、リアルな声を届けることができると思っています」(高橋さん)
『家、ついて~』は、街頭でスタッフが「家の中を見せてください」と一般人に声をかけ、許可が出たらそのままお邪魔する。もちろん断られるときもあるし、撮影が終わってからお蔵入りになることもある。
月に1万人くらいに声をかけて、放送までたどり着くのは、たった15組程度だという。しかもその内容は自宅でインタビューに応じた75才男性が85才女性とのW不倫を明かしたり、番組出演がきっかけで復縁・結婚するカップルが現れるなど、超プライベートなもの。
高橋さんが心がけるのは「絶対に取材対象者の味方に立つこと」だ。
「相手のプライベートを聞き出すには、感覚を研ぎ澄まして相手の言葉やしぐさに気を配って、信頼してもらうことが必要不可欠。インタビューに応じながらも携帯を手放さないのであれば、『相手は恋人かな?』など想像力を働かせる。
そしてそれを描かせてもらうためにはとことん味方になることが大切です。その信頼関係を築ければ、秘密にしていたことや悩みを打ち明けてくれて思いもよらない展開になる。こうした取材に基づく『未知との遭遇』の面白みは、NetflixやYouTubeでは描けないものではないかと思います」(高橋さん)
高橋さんは、この「未知との遭遇」こそが地上波テレビの強みだと語る。