臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、新型コロナ感染への注意喚起について考察。
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ベッドに寝たまま鼻カニューレをつけて酸素療法を受けている患者や、人工呼吸器をつけて力なく横たわる患者の映像が情報番組で流れている。だがそんな映像の中でも、気に留めて見るのは芸能人やアスリートなど著名人であることが多い。
先日は、新型コロナウイルスに感染したタレントの石田純一さんの、酸素チューブをつけ入院している姿が報じられた。目にするだけで痛々しい。同時に、自身がコメンテーターを務める文化放送のラジオ番組で電話インタビューに答えたという音声も流された。
その声に力はなく、息をするのも苦しそうなことがわかる。38.8度の熱があったというが、それでも「みなさん、どうぞ油断せずに」と語りかけていた。10日に沖縄に出張、11日にゴルフもしていたという石田さんは、14日に肺炎の症状が出て入院、陽性と判定された。妻の東尾理子さんの「心配な状態が続いている」というコメントもあり、依然その病状が案じられている。
今回の新型コロナではこれまでにも、芸能界やスポーツ界などで活躍する多くの人たちが感染を公表。志村けんさんの感染が報道された時は、誰もがその病状を心配した。訃報を聞いて耳を疑い、国中が悲しみショックを受けた。4月に入ってからは、お笑いトリオ「森三中」の黒沢かずこさん、テレビ朝日のアナウンサーで『報道ステーション』メインキャスターの富川悠太さんなどの感染がメディアで取り上げられた。
自宅待機していたが症状が悪化、一時は集中治療室に入り治療を続けていたイギリスのボリス・ジョンソン首相は無事に退院。すぐにビデオメッセージを公表。自身の治療にあたった医療従事者らに感謝を述べたが、やつれた姿がコロナの怖さを物語っていた。
感染の報にファンや支持者なら心配するのは当然だが、自分とは直接関係がなくても、テレビや映画、スポーツ中継などで目にしたことのある人物が感染したと聞けば、見知らぬ誰かが感染したより気になってしまうのではないだろうか。そこには、「身元のわかる犠牲者効果」が働いているのだと思う。
人には、誰なのかわからない人や集団の危機・困難より、誰なのかわかっている人や特定できる集団が危機・困難に陥っている場合の方が強く反応し、思いやりを見せたり助けてあげたいと手を差し伸べる傾向があることがわかっている。例えば募金でも漠然としたものより、「○○ちゃんを救う会」など顔がわかる方が援助しようという気持ちが強くなる。
「身元のわかる犠牲者効果」とはひどいネーミングなのだが、今回の感染症のような場合、一般に向けて注意喚起を促す強いメッセージにもなり得るだろう。感染理由や経緯がどうであれ、石田さんが病床から「気をつけて。それでもなおかつ、もう一回気をつけて」と人々に呼び掛けたようにだ。
今はもう、いつ誰が感染してもおかしくない状況だ。感染せぬよう、犠牲者をこれ以上出さぬよう、まさに「気をつけて。それでもなおかつ、もう一回気をつけて」。