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コロナ禍で考えてみた「トロッコ問題」 4人の賢者の答え

『エチカの時間』が描くトロッコ問題

 トリアージの問題を例に挙げるまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界は「倫理」に向き合うことを余儀なくされている。渋谷のスクランブル交差点付近で巨大鉄球が落下!250人と3人、あなたはどちらを助ける?──玉井雪雄氏がビッグコミックスペリオール(小学館)で連載中のマンガ『エチカの時間』1stシーズン(単行本1、2集収録)のテーマである「トロッコ問題」は、圧倒的ジレンマの倫理学の思考実験だ。倫理は人類の知。ならば「トロッコ問題」に答えることは“100年に一度の脅威”克服にも通じるはずだ。4人の賢者に聞いた。

 * * *
【トロッコ問題とは?】
  1967年、哲学者フィリッパ・フットが発表した思考実験。線路を走っていたトローリー(路面電車、トロッコ)が制御不能になった。このままでは前方で作業中の5人が轢き殺されてしまう。このときあなたは線路の分岐器の側にいた。電車の進路を切り替えれば5人は助かる。しかし、別線路の先では1人が作業しており、切り替えれば5人の代わりに1人が犠牲になってしまう。あなたは別線路に電車を引き込むか、否か?  漫画『エチカの時間』では、巨大鉄球が渋谷のスクランブル交差点付近で落下し、250人を救うか、3人を救うかの選択を主人公達が迫られる。

山口真由氏

●最強のエリート・山口真由氏の答え
(1983年生まれ。東京大学法学部を首席卒業。元財務官僚。ハーバード大学ロースクール留学。ニューヨーク州弁護士)

 法律家としては自分が直面した場合、法律の観点から判断するだろう。今回のケースのように第3者として選択の場面に出くわした場合、自分に何かの義務はない。ゆえに何もしないと250人の方に鉄球が突入するとしてもクレーンは動かすべきではないということになる。逆に動かすという積極判断により、3人に対する殺人罪に問われうる。たとえより多くの人命を救うための判断だとしても、法的な観点からは、結果は同様だ。ただ、250人の中に知人や家族がいた場合、感情で判断し3人を犠牲にしてしまうかもしれない。法律上は問題がある。限界状況でやむをえないとなれば、犯罪とならない可能性もないではないが…。

茂木健一郎氏

●脳科学者・茂木健一郎氏の答え
(1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』で第4回小林秀雄賞受賞)

 人工知能的な発想からは多数のために少数を犠牲にすることが合理的に思うが、人の脳はもっと複雑だ。まず「身体性」。トロッコ問題で、太った男を突き落としてトロッコを止めて多数を救うか、という問いでは一気に選ぶ人は減る。つまり、より身体を使うことに対してはためらいが生まれる。もう一つは「不確実性」の問題。必ずその結果になると保証できるのは全能の神だけ。犠牲を出さなくても助かる可能性もあれば、犠牲を出しても助からない可能性もある。脳はそんな不確実性の前に、簡単には割り切れない。故に私の答えは「その場面にならないと分からない」。 

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