世界を覆うコロナ禍はいまだ収束の兆しを見せない。日本にしても現状はピークを迎えつつあるのか、それともさらなるピークを迎えるのか。一度、収束しても再びウイルスが息を吹き返してくることはないのか。新型コロナウイルスがこれまでの常識が通用しない新たな感染症であることは、人々の不安をより増幅させている。
アルベール・カミュの小説『ペスト』(1947年)が爆発的に売れるなど、感染症をテーマにした過去の文学作品や映画に大きな注目が集まっている。その一つに、新型コロナウイルスの登場を予見していたかのような、未知の感染症を描いた『感染列島』という日本映画がある。2008年に封切られた映画で、パンデミック(爆発的に流行する感染症)による国内の混乱や、主に病院を舞台にしたウイルス感染症との戦いを描く。
ある日、妻夫木聡演じる医師の松岡剛の勤務する病院へ、インフルエンザ感染症と思われる患者が運ばれてくる。患者は鼻や口から出血。翌日から次々に同じ症状の患者が次々と運ばれてくるが、あらゆる治療が効かずにバタバタと亡くなっていく。
「新型インフルエンザ」を疑ったWHO(世界保健機関)は日本での鎮静化を期して医師を松岡の病院に派遣する。その医師とは、松岡の大学時代の教師助手であり、元恋人の小林栄子(檀れい)だった。小林は病院内で陣頭指揮を執ることになる。そこでパンデミック鎮静化のために打ち出したのが、新たな感染症における4テーマについて明らかにすることだった。
4テーマとは、【1】それは何か(ウイルスの正体)、【2】それは何をするのか(感染症が引き起こす症状)、【3】それはどこから来たのか(感染経路の究明)、【4】それをどう殺すのか(治療法)である。以下、この4テーマになぞらえて、今回の新型コロナウイルスについてこれまでにわかっていることを整理してみたい。
【1】それは何か
今回の新型コロナウイルスは、人に感染する7種類目のコロナウイルスだ。コロナとは「王冠」を意味し、このコロナウイルスの形が王冠に似ていることからこの名がついた。
4種はいわゆる風邪のウイルスで、残りの2つは2002年に発生した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」と、2012年以降発生している「中東呼吸器症候群(MERS)」の原因ウイルスである。
SARSは日本での感染者は最終的にゼロ、MERSも日本での報告例はない。ところが、今回の新型コロナウイルスは日本を含む世界で300万人の感染者、20万人以上の死者を出している。昨年末以降、発生地の中国・武漢から世界中に感染が拡大し、多くの都市が封鎖された欧米だけでなく、いまやその魔の手はアフリカ大陸にも伸び、同地で3万人以上の感染者を出している。