昨年10月の東日本台風(台風19号)が全国に被害をもたらした中で注目を集めたのが、“ムサコ”こと武蔵小杉駅(神奈川県川崎市)だ。駅周辺では多摩川に排水できなくなった水が逆流して大規模な冠水が発生。「住みたい街ランキング」上位の常連として知られるムサコの街並みやJRの駅改札、構内が泥水に浸るニュース映像は鮮烈な印象を残すものだった。さらに、駅前のタワーマンションでは浸水被害により地下の電気設備が故障するなどの被害が出た。
鉄道各社の路線再編などに伴って都心や新横浜へのアクセスが飛躍的に向上した武蔵小杉の駅周辺には、数多くのタワーマンションが林立している。東日本台風ではそうしたタワマン群の災害リスクにスポットが当たったかたちだ。
エレベーターが動かなくなるなどの憂き目に遭ったタワマンを含む周辺12のマンションの管理組合が今年1月になって、連名で川崎市長に一通の要望書を提出した。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が解説する。
「『駅周辺の冠水対策の実施』など28項目を求める内容なのですが、中には『電源やポンプ設備を高層階へ移設するための費用補助』といった項目もある。つまり“税金でタワマンを改修してくれ”と要求しているわけです」
一方で、市の浸水被害検証委員会が4月8日に行なった報告では、「対応に瑕疵はなく、(住民への)補償については難しい」としており、拠出に積極的な姿勢とはいえなそうだ。
「要望書への返答という形ではまだできていない。これから内容を精査していくが、新型コロナの影響もあり、いつになるかわからない」(川崎市中原区地域振興課)
行政とタワマン住民の間に生じた溝。水に流せる日はまだ先のよう。
※週刊ポスト2020年5月8・15日号