認知症の母(85才)を介護するN記者(56才・女性)。そんな認知症の母が上機嫌になることのひとつに家電がある。いつまでも主婦の心を忘れていないのだな、そして家電に描く「夢は無限大!」と母の姿を見て思ったのだった。
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「へぇ~これ冷蔵庫? たんすみたいね」と母がつぶやいたのは、散歩のついでに立ち寄った家電量販店でのこと。コロナ騒動など想像すらしていない昨秋頃のことだ。
確かに冷蔵庫の外観は、言われてみれば昔の洋服だんすのようだった。観音開きの冷蔵室、引き出し式の野菜室、冷凍室にも賑々しく食べ物の写真が配置されていた。
「冷凍食品も野菜もこんなにたくさん、きれいに詰まっているわね~」
「えー、感心するの、そこじゃないでしょう(笑い)」
若い頃、母はわりと堅実な主婦だった。家計簿こそつけていなかったが、家財道具は必要最低限。最新の流行や華美なものは一切なかった。
でもなぜかデパートの家電売り場を見て歩くのは好きだった。だから父が亡くなった直後には、母の好きな書店と、用もないのに家電量販店によく行ったものだ。
最近はマッサージチェアのお試しコーナーもお気に入り。遠慮なくどんどん試す。昔控えめだった母が操作スイッチをガチャガチャやる姿を見ると、やはり認知症のせいかなとも思うが、殻を破って楽しめるなら、それもまたよしだ。
「石窯で焼いたみたいなピザができるって。かまど炊きみたいな炊飯器だって!」
身近な調理家電コーナーではさらにエキサイトする母。