音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、独特の「柔らかさ」が魅力の隅田川馬石DVD「隅田川馬石長講十八番其の壱 双蝶々(ふたつちょうちょう)」についてお届けする。
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五街道雲助の二番弟子、隅田川馬石。この人の滑稽噺には、なんともいえないトボケた可笑しさがある。力技でハジケた笑いを生むのではなく、飄々と演じている馬石の雰囲気そのものが楽しい。「爽やかさ」でも「軽やかさ」でもない、独特の「柔らかさ」が馬石の魅力だ。
最近聴いた中だと『明烏』が良かった。時次郎の純朴さがとても可愛く、だからこそ可笑しい。吉原が存在しない現代において江戸廓噺としての『明烏』本来の面白さを見事に表現しているのはさすがだ。
だが一方で馬石は、師匠雲助譲りの重厚長大な人情噺を得意とする演者でもある。先日ミュージック・テイトから発売されたDVD「隅田川馬石長講十八番其の壱 双蝶々」では、そういう側面での馬石の魅力を存分に味わうことができる。
長編『双蝶々』のうち、このDVDに収録されているのは優しい継母に反抗する長吉の悪ガキぶりを描く「小雀長吉」と、奉公に出された長吉が小僧の定吉と番頭の権九郎を殺して逐電する「権九郎殺し」。昨年2月22日に池袋演芸場で行なわれた「第27回奮闘馬石の会」で演じられたもので、実は僕も客席にいた。