佐藤愛子さんと小島慶子さんが夫婦関係や人生について手紙をやりとりした単行本『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』が刊行になった。『九十歳。何がめでたい』の発売から4年、変わらぬ怒り節を炸裂させる佐藤さんと、論客として知られる小島さん。世代も考え方も違う2人の“真剣勝負”は、こんな感じで展開される。
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佐藤愛子×小島慶子
「酢ダコ」をめぐる手紙のやりとり(本書より摘要)
佐藤愛子(96歳)
世の中にはいろんな人がいます。…「蛸の酢のもの」を酸っぱいから嫌いだという人を、味のわからん奴、と怒ってもしょうがない。また、無理に嫌いでなくなろうと努力する必要もない。…今の時代は何かというと人の気持をわからなければいけないといい過ぎる…エイいちいちうるせえ、と私はいいたくなる。
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小島慶子(47歳)
佐藤さんは酢ダコに対する多様性に寛容でいらっしゃるのですが、私は「どんなに不味い酢ダコに当たっても、美味いと言わねばならない」と頑なに思い込んでいるようなのです。酢ダコ原理主義です。…酢ダコ嫌いであっても「酢ダコは美味い」と言うべく最大限の努力をするべきだと思っているんですね。
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そんな往復書簡エッセイ『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』を放送作家・鈴木おさむ氏はどう読んだのか。鈴木氏による書評をお届けする。
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まず最初に。小島慶子さんと僕は昭和47年生まれの同じ年なんです。だからでしょうか? 小島慶子さんの感じていることがとてもわかる。なんでしょう? 40代後半から50代って、そういう年代なんでしょうか? 色んな事に苛立って、気になって、「自分がすべて正義じゃない」ってわかるんだけど、若い人、年上の人、周りの人、苛立つことが多い。だから最近、自分も「もしかしたら俺は男性更年期なんじゃないか?」と思ったりします。
そして、僕は結婚して18年。毎日、妻に怒られています。4月上旬に緊急事態宣言が出されてから、家にいることがかなり増えました。すると妻に怒られることも多くなりました。妻が僕に対して「足音が大きい」と注意する時が1年の中で何回かあります。わかるんです。それを言う時は僕に対して不満がたまっていて、生理的にも許せなくなっている時期なんです。まさに今がそれで、この本を妻が読んだら、妻は何百回もうなずくとは思うのですが、僕からしたら小島さんの旦那さんの気持ちもすごくわかったりして。
でも、最高なのは、やはりタイトルにもなっている「酢ダコ問題」ですね。不思議なものです。妻と18年一緒でも、微妙に嘘をついてしまう時がある。妻が自信満々に「これ、おいしいよね?」と言ってくる時に、「俺、あんまそれ好きじゃないんだよね」というのも結構勇気がいったりする。僕は酸味が強いものや酸っぱいものがあまり好きじゃないけど、妻は好きで、妻好みの味でも、僕には合わないものがある。はっきりと「嫌い」だったら言いやすいんだけど、「合わない」時って言いにくい。
夫婦ってそんなものなのだ。
と、話は逸れたが、小島さんの手紙を読んでいると、今の僕の悩みとジャストフィットするところがかなり多い。それを佐藤愛子先生が、やさしく受け止めて、合気道のように、クルっと回されやっつけられる。「みんな違ってみんないい」とよく言います。その方がいいというのはよくわかりますが、なぜ、そうなのか?と、色々な言葉で説明してくれるおかげで、体に馴染んでくる。
そして、100歳が近づいてもなお、ちょっとしたことに腹立つ佐藤愛子先生の体験を聞くと、結局人は何歳になっても怒るし苛立つんだなと安心する。だからこそ信ぴょう性があるのだ。
考え方は人それぞれ。だからおもしろい。そう思いながら、もうしばらく続きそうな自粛生活、過ごします。
※女性セブン2020年5月21・28日号