国内

「若者にコロナ治療譲る意志カード」 64歳医師はなぜ作ったか

医療崩壊の危機を実感させられるカード

 想像してみてほしい。新型コロナで重症化した老人が病院に運ばれたものの、集中治療室は残り1室。そのとき、同じ症状の若者が運ばれてきた。困惑する病院スタッフに、息も絶え絶えの老人は懐から1枚のカードを取り出す。

「私は若者に集中治療を譲ります」。そう書かれたカードを見たスタッフは、老人を放置して若者を中へと運んでいった──。さて、あなたはこの老人になれますか?

◆どの患者を先に治療するか

 新型コロナで医療現場が逼迫するなか、切実な問題となっているのが集中治療室(ICU)と高度医療機器の不足だ。

 日本集中治療医学会は4月1日、ICUのベッド数について、「ドイツでは人口10万人当たり29~30床で、イタリアは12床程度。日本は5床程度にすぎない」と指摘し、「日本の集中治療の体制は、パンデミックには大変脆弱」と訴えた。

 さらに、重症患者の治療に用いられる人工呼吸器、人工肺(ECMO)といった高度な医療資源は台数に限りがあり、患者数が増えると必要とするすべての患者に提供することができなくなる。

 その結果、医療現場で「どの患者から先に治療をするか」の葛藤が生じ、医療が崩壊することが危惧されている。

 この状況に一石を投じて話題を呼んでいるのが、大阪大学人間科学研究科未来共創センター招聘教授で現役医師(循環器科専門医)の石蔵文信氏(64)が高齢者向けに作成した「集中治療を譲る意志カード(譲〈ゆずる〉カード)」だ。

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