新型コロナウイルスの感染拡大防止のための施策は、様々な事柄に影響を及ぼしている。たとえば農業分野では、休校によって給食がなくなったり、飲食店などの休業で余った牛乳や野菜、肉や魚などの食材を買って下さいという呼びかけが盛んに行われているが、実はそれより手前、収穫が間に合わない事態に見舞われている。農業にはまったくの素人である旅館の従業員など人手をかき集めて対応しようとしている農家の今について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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ゴールデンウィークが始まった直後の4月下旬、茨城県常総市の農業・松本弘さん(仮名・60代)の姿は、自身の所有する畑にあった。
「もう一週間くらい、スケジュールが押している。家族や近所の人にも助けてもらってるけど、農業全然やったことないって人もいるし、捗らない。やっぱ全然ダメだね」(松本さん)
例年この時期は、芋類や夏野菜の種まき、玉ねぎなどの収穫に追われて猫の手も借りたいほどの多忙さだが、今年は特に作業が進まない。それもそのはず、多い時で10名ほどいた、主に東南アジアからの「技能実習生」達が、新型コロナウイルスの影響から全員帰国し、作業人員が確保できていないのだ。
「中~大規模農家は軒並み人手不足、お互いに助け合ったりしてなんとかやっていこうと思ってるけど、結局実習生頼りだったワケよ。実習とは名ばかり、単なる安い労働力、なんて言われてて、まあそういう側面もあったんだけどね。もう、そういうものに頼っていかないと、農業は成り立たなくなってきてるんだよ」(松本さん)
同じく群馬県内で農業を営む原田幸雄さん(仮名・70代)も、松本さんと同様、技能実習生の帰国によって、深刻な人員不足に悩まされていた。
「人手不足で、収穫も追いつかないし、種まきや植え付けもできない。このままだと夏や秋の収穫にも影響が出そうだと思い、あらゆる知人に“手伝ってくれ”とヘルプを出したんです」(原田さん)
原田さんは知人のつてをたどって、県内の温泉旅館で働く料理人や客室スタッフ、タクシー運転手を紹介してもらった。いずれも新型コロナウイルスの影響で仕事がないか、大幅に減ったという人たち。みな農業には不慣れだが、労働力にはなる。
「時給に換算すると最低賃金に少し色がついたくらい。でも、仕事がないよりはマシとみんな頑張ってくれています。いや、よくよく考えてみると、昔はみんなこうだったんですよ。農家の繁忙期には、いろんな人が手伝いに来てくれていたんです。農家だって、年がら年中忙しいわけでないし、冬は東京に出稼ぎにも行ってました」(原田さん)