臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、検察庁法改正案への抗議の連鎖について。
* * *
「#検察庁法改正案に抗議します」から始まったTwitterデモは、あっという間に大きな世論のうねりとなった。安倍首相はこの世論の反発を強行突破で乗り切るより、一旦は立ち止まることにしたらしい。改正案の今国会成立を断念したのだ
Twitterで#がつけられた抗議が投稿されると、1週間ほどで1000万を越えるリツイートがあったという。浅野忠信さん、井浦新さん、小泉今日子さんやきゃりーぱみゅぱみゅさんら芸能人や著名人も次々に声を上げた。
そうした人々の抗議に賛同する人たちが加速度的に勢いを増し、なだれ込むようにネット上では、Twitterによるデモが巻き起った。「情報カスケード」という現象が起きたのだ。情報カスケードとは大規模な行動の連鎖によって、人々が集団のように一方向になだれ込んでいく現象のことをいう。
政治のことがわかっていても、よくわからなくても、法案のことを詳しく知らなくても、今のこの状態に、今の安倍政権に抗議したいという気持ちを持つ大勢の人たちが動いたのだろう。“いざ行動!”といっても、ネットなら手を、指先を動かすだけだ。
今回、世間の反発を招いた原因は、コロナ対策があれもこれも遅れているにも関わらず、政権はまた自分たちの都合のいいように物事を進めようとしているのかという疑惑や不信感だろう。そう思っていたところに#がついた抗議が起き、芸能人や有名人たちもツイートすることで賛同する人、彼らの行動に同調する人たちがどんどん増えていった。
問題とされた検察庁法改正案だが、論点としてあげられていたのは検察幹部の定年を内閣が必要と判断すれば延長し、役職を退く年齢になってもそのポストに最長3年とどまれる特例があること。これにより政権に都合のいい検察幹部が長い間に渡り登用されたり、検察の捜査自体に影響が出る可能性があるということらしい。
官邸の守護神ともいわれる黒川検事長の定年延長が、1月末に閣議決定されたことも問題視された。検察官の定年延長は初めてのことだ。以前、政府は国会で国家公務員法の規定は検察官には適用しないと答弁しているのに、2月の国会で安倍首相は「適用されると解釈することとした」と表明したからだ。この発言は黒川氏の件を正当化するための後付けと批判を浴びた。そう聞けば、やっぱり政権寄りの黒川氏を検事総長の座に就けたいのだろうな…と思えてくる。
井浦新さんの「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」というTwitterのつぶやきが、人々の思いを代弁している気がする。森、カケ、桜と問題が起きる度に安倍首相が述べてきた答弁の数々に、すでに食傷気味の人も多いと思うからだ。
法案に関する国会の質疑応答では、森法相が時おり声を震わせながら、人事院規則がまだ定められていないことから「その内容を具体的に全て示すことは困難であります」と、具体的な基準イメージすら答えられずにいた。元検事総長を含む検察OBからも、反対する意見書が法務省に提出された。
それでも安倍首相は、記者団の取材に「国民の理解なくして前に進むことはできない」と述べた。次期国会での成立を目指すらしい。インターネット番組では「法務省が提案した」と責任転嫁とも取れる説明もしたと聞く。果たしてこの後に及んで、国民の理解をどう得ていくつもりなのか? 今後の首相の発言が、ある意味楽しみだ。