音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、3月21日の鈴本演芸場で印象的だった柳家三三と柳家花緑についてお届けする。
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3月中旬以降、首都圏の落語会が新型コロナウイルスの影響で次々に中止/延期となっていく中、年中無休を謳う都内4軒の寄席定席は、3月25日に小池都知事が週末の外出自粛を要請したことで28日・29日が休席、31日の「余一会」も中止となったものの、それ以外は通常営業を続けていたが、緊急事態宣言発令が決定的となり、遂に4月4日から休業に踏み切った。
落語協会ではこの春5人の新真打が誕生、3月下席の上野鈴本演芸場から披露興行が始まっていた。大初日の21日は柳亭市馬の一番弟子、柳亭市楽改め玉屋柳勢の披露目。彼を含め、厳しい門出を迎えた新真打については次回改めて触れるとして、ここでは21日の鈴本でとても印象的だった2人の高座について書きたい。柳家三三と柳家花緑だ。
三三が演じたのは全編オリジナル演出満載の爆笑編『元犬』。犬から人間になったシロがあくまで犬らしく、それがとても愛くるしいのが肝だ。褌や帯にジャレついてグルッと回って「お手」を求めたり、奉公先の隠居の膝に飛び乗って耳を舐めたり、「お椀」と言われて「オー、ワン!」と吠えたりするシロを生き生きと演じる三三が実に素敵で、そんなシロを愛でる上総屋や隠居のリアクションもいちいち可笑しい。
シロが語る父母兄弟の身の上話は定番どおりと思いきや、そこから発展させての驚愕のサゲはもはや「改作」の域。この『元犬』での三三には、「三遊亭白鳥作品を古典のように演じる」ときに通じる、水を得た魚のような躍動感がある。白鳥の連作「流れの豚次伝」を自らの十八番に加えた三三ならではの逸品だ。こういうところにこそ、実は三三の本質があるのかもしれない。