【書評】『皇国日本とアメリカ大権 日本人の精神を何が縛っているのか?』/橋爪大三郎・著/筑摩書房/1600円+税
【評者】平山周吉(雑文家)
戦後政治のかたちを決めた「55年体制」、戦時下に出来たとされる日本型経済システム「1940年体制」、その二つのさらなる先に「昭和十年代体制」とでも呼ぶべき精神体制があり、今も日本人を「束縛」しているのか。そんな重たい感触を読後に残すのが橋爪大三郎の『皇国日本とアメリカ大権』である。
昭和十二年(一九三七)に文部省が編纂し、一般向けに出版され、中等教育では教科書として使用された『國體の本義』を本書は解読していく。一流執筆陣が、昭和の「総動員体制」を記紀神話に基づいて正当化し、敗戦までの間に二百万部ものベストセラーとなり(古川隆久『建国神話の社会史』中公選書)、戦後はまったく忘れられたのが『國體の本義』である。
その難解な本文はいまなら佐藤優『日本国家の神髄』(扶桑社新書)で全文を読める。橋爪は当時の読者、とくに学生は「暗記科目」として読んだだろうと推測する。『國體の本義』は「歴史や国語や道徳や、社会経済や、思想宗教や、すべてを総合する知識である」。
その記述は苦しまぎれとほっかぶりのオンパレードだが、「これが正しい」という唯一の文書ゆえ、「誰もそれに反論しない(できない)」。まるで毛沢東思想のように享受され、日本人の思考と行動に影響を残したのではないか。