「ガチャ」とは、ソーシャルゲームでランダムにアイテムを入手できるくじ引きのようなゲーム内システム。無料で引けるのは数回なので、特定のほしいアイテムのためにガチャの権利を際限なく購入する依存症のような人たちが出現し、たびたび社会問題化している。仕事や人生がいまひとつうまくいかないと鬱屈する団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアを「しくじり世代」と名付けた『ルポ 京アニを燃やした男』著者の日野百草氏が、今回は、新型コロナウイルス対策のため在宅勤務になったことで、ソシャゲにますます溺れている43歳男性についてレポートする。
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「早く給付金が欲しいです。少しでも足しにしたいんで」
東京都立川市、とあるアニメの舞台にもなっている北口のファミレスで、栗城淳也くん(43歳・仮名)と落ち合った。ゴールデンウィーク明けとはいえコロナの影響で立川駅の人出もまばら、この先にある有名なホビーショップの本店も人の出入りはなく閑古鳥だ。当のファミレスは時短とはいえ営業中でそこそこの客入りだが、普段の半分くらいか。
「リモートワークってみなさん真面目にやってるんですかね、私は全然だめです。むしろ仕事にならない」
栗城くんは私の後輩にあたる編集者でデジタルコミックの会社の契約社員だ。親しみを込めて私も今回のルポは「くん」で統一する。彼は誰もが知るようなメジャー作品を手掛けているわけではないが、担当作家も連載本数も多い。出版業界の雇用形態は少々特殊で、契約社員や嘱託でも仕事内容は変わらないことのほうが多い、私がいた某出版社などは契約社員の編集長どころかアルバイトの編集長がいた。対外的には編集長だが、なぜか社内的には副編集長などわけのわからない社内ヒエラルキーを敷いていたので、編集長なのに名刺に肩書がないとか編集長なのに名刺が副編集長とか、ただでさえ不審な会社なのに余計に不審がられたものだ。某編プロに至っては契約社員の総務課長とかいた。このように大手はともかく中小零細、編プロに限ればかなり特殊で近寄らないほうがいい業界である。ちなみにゲーム業界もこれに近く、声優のキャスティング権を持つ契約社員とか普通にいる。彼がいま勤めているのは出版社ではなく畑違いの某通信系大手上場企業の孫会社だが、それでもこのように、近年は出版社以外の資本が参入して来ることも増えた。とにもかくにも栗城くん、自粛で編集部に行かなくてもよくなったのはいいが、自宅アパートにいると仕事をしなくなってしまうと愚痴る。
「仕事がはかどらないだけじゃない、家にいるとお金を使ってしまうんです。もうほんと、どうしようかと」
だが、これだけではただのダメな中年サラリーマンの嘆きだ。普通は自粛して家にいれば金は使わない人がほとんどだ。しかし彼の場合は違う。私は知っている。彼の尋常じゃないスマホのソーシャルゲーム(以下ソシャゲ)に対する課金ぶりを。金がないないと嘆くのは、タイトルに(仮)のつくスマートフォン向けソーシャル学園恋愛ゲームでガチャを引きまくっていたときもそうだった。もう5年以上前の話か、お気に入りの声優目当てに大金をぶっこんでいた。もっと昔、ただのゲーム好きだったころは時間の無駄遣いだけで済んだのに、ソシャゲとガチャによって時間だけでなく経済的にも詰んだ。