室町時代創建の東京・東村山市にある古刹。その一角に、ひときわ大きな墓がひっそりとたたずんでいる。きれいに掃き清められ、花立てには彩りにあふれた真新しい花が供えられている。線香の燃え跡が残り、周囲にはまだ香りが漂っていた。
その傍ら、先祖代々の戒名が記された墓誌に、先日、新たな戒名が刻まれた。
「瑞心院喜山健徳居士」
ここには、3月29日に新型コロナによる肺炎で急逝した、志村けんさん(享年70)が眠っている。最愛の母・和子さん(享年96)と共に。
訃報から2か月余り。突然の別れとなった長兄の知之さん(73才)は、「まだ亡くなった実感がない」としながらも、「納骨が終わってホッとした」と複雑な胸の内を口にする。
「四十九日の前に、家族のみで納骨しました。新しく建てたのではなく、先祖代々250年続くお墓です。けんは妻も子供もいなかったので、両親や、じいちゃんばあちゃんたちと一緒にゆっくりしてもらえればと思ってね」
先祖代々の墓は、長男が受け継ぐケースが多い。志村さんのように3人兄弟の末っ子で妻子がなく、突然の死を迎えた場合、墓問題は迷走することも少なくない。ましてや、志村さんは遺言も残していないとされている。
葬送・終活ソーシャルワーカーの吉川美津子さんが言う。
「先祖代々のお墓に、長男しか入れないという決まりはありません。そのお墓を管理している祭祀継承者が了解すれば、入ることができます。志村さんの場合はお兄さまや親族との関係が良好だったので、揉め事もなく、スムーズに入ることができたのでしょう」
生前の志村さんは多忙の合間を縫って、正月には母・和子さんと知之さん一家が暮らす実家を訪れている。結びつきが強かった兄弟らしく、葬儀や納骨などは兄らが取り仕切ったという。
葬儀で使われた志村さんの遺影も、知之さんが住む実家に戻っている。その遺影の話題になると知之さんの表情が緩み、懐かしそうにこんなエピソードを教えてくれた。
「遺影にした写真は10年くらい前のもので、鶴瓶さん(笑福亭鶴瓶・68才)と一緒に撮った一枚なんです。鶴瓶さんに報告したら、“一緒に写っている写真をそんなふうにしてくれて”って喜んでくれました。
母親が、鶴瓶さんとけんのテレビ番組に出演したことがあるんですけど、その撮影の合間に撮った写真なんです。出来上がった写真を見て、いい笑顔だなって思ってね。ほかにも写真はたくさんあるんですけど、この鶴瓶さんと写ってる写真がいちばんいい。あのけんの表情が、ずっと頭に残っていたんですよ」(知之さん)