新型コロナウイルス感染拡大のなか、人々の暮らしを守り、社会を支えるために働いているのが「エッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)」だ。医療従事者、配達員、役所職員、清掃員、保育士、運輸業者、スーパーやドラッグストアの店員など、多くのエッセンシャルワーカーが働いてくれているからこそ、コロナ禍でも生活ができるのだ。
しかし、医療従事者に対する差別的な言動や、「なぜマスクを置いていないのだ!」などと、店員に対する理不尽なクレームなど、エッセンシャルワーカーが苦しめられている現状があるのも事実だ。
◆懸命に働くほど困窮していく
海外の事情はどうだろうか。爆発的に感染者数が拡大した英国はロックダウン(都市封鎖)を断行し、医療などを除くほぼすべての業務が停止した。慶應義塾大学教授で労働経済学者の太田聰一さんが指摘する。
「英国のスーパーでは買い占めによる物不足が生じて、連日寝ずに勤務していた看護師の女性が、“お願いだから買い占めをやめてください。何も買えなくて暮らしていけない”と涙ながらに訴える姿が大きく報じられました。欧米では小売りや流通などがほぼストップして、大きく生活水準を落とさざるを得ない人が数多く現れたのです」
日本では医療以外のエッセンシャルワーカーもコロナ禍のもとで働き続けた。それによって生活の質はある程度保たれたが、当然ながら、その日常の陰に大きな犠牲が払われていることを知るべきだ。
たとえば、大手喫茶チェーンのカフェ・ベローチェは、緊急事態宣言が出た後も人を減らして時短営業を続け、現場の従業員の負担が激増。
労働組合が抗議すると、本社は即座に“自由に休んでいい”という通達を出した。しかし、通達内容は“休むことに対する許可”のみ。休業補償などに関する文言はなく、結局、「同僚に迷惑がかかるから」と、出勤をやめる従業員はわずかだったという。