大は小を兼ねるとはいうが、大きいものを実際に小さくするのは難しい。だが近ごろは、大きなものを実際に小さくして、使い勝手をよくする試みが建築分野で盛んに行われている。もっともよく見られるのが、子供が独立して人数が減った世帯にあわせて行うマイホームのリフォームだ。人口減少時代に入った日本では、公共の建物にも減築が求められている。ライターの小川裕夫氏が、駅ビル減築についてリポートする。
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6月6日、東京メトロ日比谷線の霞ヶ関駅と神谷町駅の間に虎ノ門ヒルズ駅が新規開業した。高輪ゲートウェイ駅ほどの話題性はないものの、虎ノ門ヒルズ駅が周辺の大規模開発プロジェクトと連動した動きであるために、東京の都市改造の目玉であることは間違いない。虎ノ門ヒルズ駅の一帯は、駅開業後も森ビルや東京都などによって開発が続く。虎ノ門一帯は、今後の数年間で大きく変貌する予想図が描かれている。
2014年に開業した虎ノ門ヒルズは、森ビルが総力を結集し開発を担当した。東京都心部に大規模開発が集中する理由は、なによりも需要があるからだ。東京五輪は延期が決まったが、それまでは政財界が五輪特需を期待していた。
新型コロナウイルスの感染拡大によって五輪は延期。東京改造およびそれに伴う経済波及効果のシミュレーションに狂いは生じたが、それでも東京都の人口は2025年まで増加する予測が立てられている。それらを見込み、特に東京都心部の開発案件は今後も目白押しだ。
他方、地方都市に目を転じると東京のように活発な開発は少ない。2012年に安倍政権が発足した当初から“地方創生”が叫ばれていたように、地方の衰退はリーマンショック以降に顕著になった。経済の停滞や人口減少により、地方都市は人口減少が加速する。そのため、住む人がいなくなった家屋がそのまま空き家として放置されることも珍しくない。
また、空き家まではいかなくても、子供が独立して高齢夫婦だけで生活している。そんな世帯も増えている。高齢夫婦が住む家では、かつての子ども部屋が手入れもされずに物置と化している。こうした手入れが行き届かない家は傷みが早い。ライフスタイルが変化したために、近年は過分に広い家を小さくリフォームする”減築”という新潮流が生まれた。
そして、減築という新たなトレンドは個人住宅だけではなく、商業施設や駅といった公共施設にも押し寄せる。2015年、岡山県倉敷市の玄関だった倉敷駅はそれまで8階建てだった駅ビルを減築。街のランドマークだった駅ビルは、コンパクトな駅舎へと姿を変えた。
「倉敷駅は市の玄関ですから、減築で街の賑わいが減退することが予想できます。市としては駅ビルの減築は避けたいところですが、駅ビルは市の所有物件ではありません。駅ビルが減築してしまうのは残念ですが、市が止める権限はありません」と口数少なめに話すのは、倉敷市建設局鉄道高架化推進室の担当者だ。