ライフ

【鴻巣友季子氏書評】男性同士の会話でこそ艶めく筆致

『クロス』山下紘加・著

【書評】『クロス』/山下紘加/河出書房新社/1600円+税
【評者】鴻巣友季子(翻訳家)

 本作は、主人公のセックスシーンで始まる。恋人の「タケオ」に「マナ」と呼ばれる「私」は、警備会社に勤める二十八歳の既婚男性だ。妻は女性で、それまでの恋愛相手も異性だったという。

 紙幅の多くが割かれるのはタケオとの関係ではない。「私」が女装癖をもつところから、女性として恋人に求められたいと思い、女装を自分のアイデンティティとするようになる──性をクロスし(越え)ていく過程だ。

「私」は学生時代から、なんとなく男らしい集団に混じり、男らしいとされることをしてきた。しかし妻が働きだすと、「私」はだんだん経済的に依存しだし、男女の役割が逆転したような感覚をもつ。性別の固定観念に縛られていたのだ。

 作者の筆致が艶めくのは、わりあい中性的な妻との関係や、こってり女の子っぽい愛人の愛未との交わりより、むしろ会社の体育会系の先輩と飲みにいったときに先輩がジョッキを取り違え、「なんだ、これおまえのだわ。間違えて呑んでた」「全然いいっすよ」みたいな会話だったり、昼に屋外で一緒に弁当を食べる後輩が後ろから、「先輩ー! もしかして俺のこと探してました?」と声をかけられる場面だったりする。

関連キーワード

関連記事

トピックス

出産を間近に控える眞子さん
眞子さん&小室圭さんがしていた第1子誕生直前の “出産準備”「購入した新居はレンガ造りの一戸建て」「引っ越し前後にDIY用品をショッピング」
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《永野芽郁が見せた涙とファイティングポーズ》「まさか自分が報道されるなんて…」『キャスター』打ち上げではにかみながら誓った“女優継続スピーチ”
NEWSポストセブン
子育てのために一戸建てを購入した小室圭さん
【眞子さん極秘出産&築40年近い中古の一戸建て】小室圭さん、アメリカで約1億円マイホーム購入 「頭金600万円」強気の返済計画、今後の収入アップを確信しているのか
女性セブン
2場所連続の優勝を果たした大の里
《昇進当確》大の里「史上最速綱取り」がかかった5月場所の舞台裏 苦手な相手が続いた「序盤の取組編成」に様々な思惑が交錯
週刊ポスト
カジュアルな服装の小室さん夫妻(2025年5月)
《親子スリーショットで話題》小室眞子さん“ゆったりすぎるコート”で貫いた「国民感情を配慮した極秘出産」、識者は「十分配慮のうえ臨まれていたのでは」
NEWSポストセブン
公益社団法人「日本駆け込み寺」元事務局長の田中芳秀容疑者がコカインを所持したとして逮捕された(Instagramより)
《6300万円以上の補助金交付》トー横支援「日本駆け込み寺」事務局長がコカイン所持容疑逮捕で“薬物の温床疑惑”が浮上 代表理事が危険視していた「女性との距離」
NEWSポストセブン
有名人の不倫報道のたびに苦しかった記憶が蘇る
《サレ妻の慟哭告白》「夫が同じ団地に住む息子の同級生の母と…」やがて離婚、「息子3人の養育費を減らしてくれと…」そして驚いた元夫の現在の”衝撃姿”
NEWSポストセブン
“極秘出産”していた眞子さんと佳子さま
《眞子さんがNYで極秘出産》佳子さまが「姉のセットアップ」「緑のブローチ」着用で示した“姉妹の絆” 出産した姉に思いを馳せて…
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《日本中のヤクザが横浜に》稲川会・清田総裁の「会葬」に密着 六代目山口組・司忍組長、工藤會トップが参列 内堀会長が警察に伝えた「ひと言」
NEWSポストセブン
気持ちの変化が仕事への取り組み方にも影響していた小室圭さん
《小室圭さんの献身》出産した眞子さんのために「日本食を扱うネットスーパー」をフル活用「勤務先は福利厚生が充実」で万全フォロー
NEWSポストセブン
岐阜県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年5月20日、撮影/JMPA)
《ご姉妹の“絆”》佳子さまがお召しになった「姉・眞子さんのセットアップ」、シックかつガーリーな装い
NEWSポストセブン
ホームランを放ち、観客席の一角に笑みを見せた大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平“母の顔にボカシ”騒動 第一子誕生で新たな局面…「真美子さんの教育方針を尊重して“口出し”はしない」絶妙な嫁姑関係
女性セブン