業績悪化に伴い、大規模なリストラ計画を打ち出している日産自動車。だが、これから発表する新モデルのクルマの中には、大衆車のようには利益が見込めないスポーツカー「フェアレディZ」の新型も含まれている。なぜ、日産はスポーツカー開発を続けるのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。
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ビジネスを立て直すための構造改革費用を上乗せしたことで、2019年度決算で6700億円という巨額の純損益を計上した日産自動車。オンライン決算会見に続いて行われた事業構造改革の説明会で、内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)は「日産のポテンシャルはこんなものではない」と語り、2021年までにグローバル市場に12車種の新モデルを投入することを表明した。
会見の最後に「NISSAN NEXT」と銘打ったショートムービーが流れた。そこに映し出されたのは新モデル12車種。低光量、逆光のため、ディテールまでは見えないが、シルエットは綺麗に浮かび上がっている。背景にはそれぞれの車名の頭文字が表示され、「アライヤ(EV)」「パトロール(ラージSUV)」「ノート(サブコンパクト)」「ローグ(コンパクトSUV)」等々であることがわかる。
12車種のラストの文字は「Z」。ルーフの低い2ドアクーペのシルエットはまぎれもなく日産伝統のスポーツカー「フェアレディZ」だ。そして、他の車種の投影時間が個別にそれぞれ1.5秒くらいであるのに対し、Zは12車種が勢揃いするまで約10秒、見る人の目を占有し続けた。
世界を震撼させている新型コロナの世界的流行による市場環境の激変で、自動車メーカー各社は戦略の大幅見直しを迫られている。その煽りを一番食っているのは、スポーツカーやスペシャリティカーなど“情感系”のモデル。作っても数も利益も出ないことから、延期であればまだマシなほう、多くはプロジェクトそのものが中止という憂き目に遭っている。
そのような状況の中、1990年代後半以来の経営危機に見舞われている日産がフェアレディZのフルモデルチェンジをやめないことを意外と捉えたライバルメーカー関係者は少なくない。
「日産は前任の西川(廣人)社長時代『安物商売ではいずれ立ち行かなくなる』と、高付加価値分野にシフトする意向を明らかにしていましたが、それは良品廉価でやってきた日本のカーブランドにとっては茨の道で、よほどの意思がなければ必ず中途半端になる。実際には売り上げの立つモデルに集中せざるを得ないだろうと踏んでいました。
その日産がおよそ利益を見込めないフェアレディZをやめないというのは本当に意外。引っ込みがつかないだけなのか、本気でブランド再構築をやり通そうとしているのか、今の時点では判断できませんが……」(国内自動車メーカー関係者)