【著者に訊け】清水潔氏/『鉄路の果てに』/マガジンハウス/1500円+税
端緒は亡父が遺した〈だまされた〉というメモ書きだった。一昨年の秋、母が施設に入り、実家の処分に追われていた清水潔氏。趣味人で旅や写真を愛した父親の思わぬ一言に触れ、75年前、旧満州からシベリアへと送られた父の足跡を自ら辿ることを決意する。
父の本棚にあった抑留者の回顧録に貼られたそのメモには、〈私の軍隊生活〉〈昭和17年5月千葉津田沼鉄道第二聯隊〉〈11月旧朝鮮経由、満州牡丹江入〉〈20年8月、ソ連軍侵攻〉とあった。また表紙裏の地図には千葉~下関、釜山~京城~ハルビン~満州里~イルクーツク~タイシェトまでをペンでなぞった〈赤い導線〉が。現在のシベリア鉄道とも一部重複するその「鉄路の果て」に、〈知ろうとしないことは罪〉が信条のジャーナリストは果たして何を見、父は何に騙されたのか?
「私は結構な鉄ちゃんで、昔から『○○に面白い鉄道があるぞ』と言っては父とカメラ片手に出かけていました。実家に暗室があったくらい父も私も大の写真好きで、その結果、自分が報道の道に進んだこと、鉄道や戦争の歴史を、〈青木センセイ〉との珍道中の中に盛り込む書き方などを試みました。最終的には『我々は日本の近代史も周辺国との関係も意外に知らない』というところに着地することになりました」
ちなみに青木センセイとは、小説『尖閣ゲーム』『潔白』等の著者、青木俊氏のこと。これまでも互いの取材旅行に同行しあってきた盟友がシベリア鉄道に憧れていたことを清水氏は思い出し、件の導線を辿る旅に青木氏を誘ったのだ。
「テレ東時代に香港や北京支局にいた彼は中国語が話せるし、ロシア語も多少できる。とにかく有難かったのは、中ソ国境で警備隊に目をつけられた時も作りかけのカップやきそば片手に抗議してくれるなど、緊迫した局面ほど和ませてくれました。センセイなしに本書は書けなかったと思うくらい、最高の相方でした」