父の急死によって、認知症の母(85才)を支える立場となった女性セブンのN記者(56才)が、介護の裏側を綴る。今回は、外出自粛期間後の変化について、明かす。
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母のデイケア休止からはや2か月、認知症の悪化ばかり心配していたら、足腰にもその影響が出ていた。いつもの通院なのに、母が私の腕にすがるように歩いたのだ。健脚が自慢だった母の急激な衰えに胸が痛んだ。
◆娘に迷惑をかけまいと鍛えてきた健脚だが…
母が月1回くらいで通っている歯科クリニックの通院日が来た。緊急事態宣言下、母が住むサ高住から厳しい外出自粛要請が出ている中で、大手を振って出掛けられる貴重な機会だ。幸か不幸かクリニックはサ高住から徒歩5分ほど。たいした散歩にはならないが、上着を着て靴を履いて、玄関を出るだけでも気分はガラッと変わる。
いつものように迎えに行くのが遅くなり、せかしちゃいけないと思いつつ、「早く早く」と言いながら玄関を出た。
すると思いがけず母が私の腕をつかんだ。
「えっ」と思ったが声には出さなかった。
母は普段、絶対に私に頼らないのだ。立ち上がりに私が手を貸そうとしても振り払う。要介護になってからは頑なにそうしているように思える。
「Nちゃんの迷惑にならないようにするからね」が、まだ父も存命の70代前半頃からの口癖で、毎日せっせと歩いていた。要介護になり、通所介護を探したときも、読書家の母には似合わぬリハビリ系デイケアを自ら選んだ。
おかげで週3回のデイケアでほぼ皆勤賞の母は健脚だ。私がうっかりせかせば「ハイハーイ!」と小走りで追いかけてくるし、かわいい赤ちゃんを見掛ければ私の制止より早く駆け寄る。美術展などでは、私がヘトヘトになる行程も涼しい顔でスタスタ。きっとそれが母のプライドなのだ。
そんな母が自分から手を預けてきた。力のないフワフワした手の感触はシャツの上からもわかった。
「足元がおぼつかないんだな」と思ったが、母の顔を直視することはできなかった。