三国志で知られる後漢末期、皇帝に取り入った十常侍(じゅうじょうじ)と呼ばれる宦官たちが権勢をほしいままにし、王朝の滅亡を早めた。安倍晋三・首相の周囲にも、総理の威を借りて大臣以上の力を持ち、行政をねじまげてきた7人の“君側の奸(くんそくのかん)”がいる。
その筆頭が「総理の振付師」と呼ばれる今井尚哉・総理首席秘書官だ。「今井ちゃんはすごく頭がいいんだよ」。安倍首相は今井氏をそう絶賛する。
父は勤務医で、宇都宮高校から1浪して東大法学部に入学し、通産省(現・経済産業省)に入省(1982年)。第一次安倍内閣で総理秘書官を務めたことで首相の信頼を得た。父方の伯父は城山三郎の『官僚たちの夏』のモデルの1人である今井善衛・元通産事務次官、もう1人の叔父は今井敬・元経団連会長という官界のサラブレッドで、省内では“将来の事務次官候補”と見られていた。
しかし、安倍氏は首相に返り咲くと資源エネルギー庁次長に出世していた今井氏を政務の総理首席秘書官としてスカウトする。今井氏は経産省を辞職して官邸入りし、2019年からは総理補佐官(総括担当)を兼務して名実ともに国政全般で総理を補佐する立場になった。
コロナ対策でも今井氏が官邸から実質的な指揮をとっているとされる。安倍首相が文科省の反対を押し切って全国一斉休校を要請したのは今井氏の進言とされ、新型コロナ治療薬の開発でも古巣の経産省に「アビガン・チーム」を発足させ、安倍首相に「5月中に承認したい」と言わせた。ただし、現在も承認のめどは立っていない。
『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』の著書があるノンフィクション作家・森功氏が語る。