高校球児にとって最後の晴れ舞台となる夏の選手権大会が中止となる一方で、“夏のセンバツ”が実現する。日本高等学校野球連盟は8月10日から計6日間にわたり、今春の選抜高校野球大会に出場予定だった32校を聖地に集め、「2020年甲子園高校野球交流試合」の開催を決定した。
「1試合とはいえプロを目指す球児にとっては数少ないアピールの場ができた。基本的にはセンバツに出場登録していたメンバーで臨みます」
そう話したのは、2018年の就任以来、この春で3度目の甲子園となる予定だった宮城・仙台育英の須江航監督(37)だ。
仙台育英には103人の部員がいるが、新たに選考しないという決断にはセンバツの登録メンバーに対する配慮がある。
「部内の競争を勝ち抜いて選抜の出場を勝ち取り、甲子園の土を踏む直前で大会がなくなってしまった球児に対する救済措置が、交流試合の本質。通常の甲子園とは異なり、ベンチ入りが20人とふたり増えますが、正直、通常練習が長い時間できなかった以上、選考には悩みますね……」
登録選手の中には、左腕の笹倉世凪に右腕の伊藤樹と、中学時代から注目されてきたふたりの2年生怪物もいる。一方で、県の高野連が独自に開催する宮城大会には、救済措置という意味合いから3年生だけで臨むという。
6月14日には仙台に帰省していた大学生のOBを集め、現役選手と練習試合を開催した。高校卒業後を見据えて3年生は木製バットを手にし、大学生を相手に勝利した。
球児なら誰もが夢見る甲子園のベンチ入りは、コロナの影響で進学先が決まっていない控えの3年生にとって大学への通行手形ともなる。“最後の2枠”を巡る競争は今後、より熾烈となろう。
●柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2020年7月3日号