国内

「自虐史観」のルーツは? 朝日新聞も使っていた過去

日韓関係などを語る際にキーワードとなってきた「自虐史観」のルーツは?(写真/EPA=時事)

 慰安婦問題を始め、日韓関係を論じる際に右派が強調してきたキーワードに「自虐史観」という言葉がある。現在、世界遺産に登録されている長崎・軍艦島について、韓国政府がユネスコに対し「世界遺産登録取り消し」を求める方針だと報じられているが、右派からは、当時の軍艦島で朝鮮半島出身者が不当な扱いを受けていたというのは「自虐史観」だとする主張も出ている。では、この「自虐史観」は誰が、いつごろ言い始めた言葉なのか? ノンフィクションライター・石戸諭氏が「自虐史観」の“ルーツ”を探った(文中敬称略)。

 * * *
 右派が好んで使い、百田尚樹も含めて現代まで「克服」の対象になっている「自虐史観」は誰が使い始めた言葉なのか? この問題について正確な回答ができる人はそこまで多くない。

 間違いない事実は、遅くとも1980年代には右派論壇で使われていたことだ。記事検索で遡れるまで遡ると、例えば1986年10月号「正論」に「“自虐史観”は日本の専売特許 外国教科書にみる歴史の『光』と『陰』」という記事があることがわかる。この論考を書いたのは立教大名誉教授の別技篤彦だが、実はこの論考内に「自虐史観」という言葉は一切使われていない。編集部がつけただけであり、論考の中身もニュートラルなもので、「左派が日本を貶めている」という意味合いでは使われていない。

 興味深いのは、自虐史観の克服は右派だけの課題ではなかったことだ。昭和から平成へと元号が変わり、冷戦が終結した1990年代初頭は自虐史観という言葉を左派系メディアの朝日新聞も「陥ってはいけない」対象として書いていた。

 1990年8月12日付朝刊の「現代史から何を学ぶか」と題された長いコラムの中で、当時の論説主幹・松山幸雄がはっきりと述べている。「私としては、生き残った世代も、戦争を知らない世代も、すべてが、次の4点について思いをめぐらせるよう期待したい」とし、「1、なぜ戦争を始めたのか」「2、敗戦の原因」「3、反省不足」「4、西独との違い」を挙げて、こう続ける。

「こうした『にがい歴史』を反芻するさい心すべきは、日本だけが恥ずかしい過去をもっている、といった『自虐史観』に陥らぬことだ。日本以外の大国の多くも、歴史上いろいろ汚点を残しているのだから。

 英仏のかつての植民地支配など、いまなら国連非難決議ものだろう。スペインの中南米侵略、米国の奴隷輸入、ナチスのユダヤ人虐殺……ソ連に至っては周辺諸国に嫌われることばかりやってきた。引け目を感ずることを恐れて『過去を直視しない』のは間違っている」

 松山のコラムは日本の歴史を相対化し、かつての大国にも「汚点」があると指摘する後段だけ読めば、およそ「朝日新聞」の論説主幹らしからぬもので、「自虐史観」という言葉のゆらぎを示している。

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン