ライフ

【関川夏央氏書評】誰もが身につまされる主題で綴る家族史

『万葉学者、墓をしまい母を送る』上野誠・著

【書評】『万葉学者、墓をしまい母を送る』/上野誠・著/講談社/1400円+税
【評者】関川夏央(作家)

 親を看取ること。それから家の墓をどうするかということ。五十歳以上なら誰もが身につまされる主題でえがいた家族の歴史である。著者・上野誠は今年六十歳、奈良の大学で三十年教える万葉学者だ。

 福岡市の南三十キロの甘木(現朝倉市)で、曽祖父が呉服屋を営んでいた。それを洋品店にかえ、大胆な発想と実行力で「小さなデパート」にまで広げたのは祖父であった。その祖父が、一九三〇年(昭和五)三十五歳で「累代の墓」を建てた。最高の石材を使った二階建て、一階の納骨室には大人五、六人が立ったまま入れるお墓は、近代商家の成功の記念碑であり、一族の繁栄と持続を祈る「家」であった。

 しかし時代は移る。一九六〇年代、スーパーマーケットが衣料品を扱い始めると、個人商店は仕入れ量と売り場面積で太刀打ちできなくなった。三代目である著者の父は、甘木の店を整理して福岡市に移った。

 七三年に祖父が、八三年には祖母が亡くなった。結局、この立派なお墓に入ったのは祖父母だけだった。やがて父と兄も亡くなり、老母の介護と維持にお金のかかる墓を託された著者は、決断をくだした。老母に奈良にきてもらい、母の資産(千二百万円とわずかな年金)をすべて介護で使い切る。甘木の「立派な墓」は、いくら費用がかかっても「しまう」(整理する)。

関連キーワード

関連記事

トピックス

タイ警察の取り調べを受ける日本人詐欺グループの男ら。2019年4月。この頃は日本への特殊詐欺海外拠点に関する報道は多かった(時事通信フォト)
海外の詐欺拠点で性的労働を強いられる日本人女性が多数存在か 詐欺グループの幹部逮捕で裏切りや報復などのトラブル続発し情報流出も
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《虫のようなものがチャーシューの上を…動画投稿で物議》人気ラーメンチェーン店「来来亭」で異物混入疑惑が浮上【事実確認への同社回答】
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》王貞治氏・金田正一氏との「ONK座談会」を再録 金田氏と対戦したプロデビュー戦を振り返る「本当は5打席5三振なんです」
週刊ポスト
打撃が絶好調すぎる大谷翔平(時事通信フォト)
大谷翔平“打撃が絶好調すぎ”で浮上する「二刀流どうするか問題」 投手復活による打撃への影響に懸念“二刀流&ホームラン王”達成には7月半ばまでの活躍が重要
週刊ポスト
懸命のリハビリを続けていた長嶋茂雄さん(撮影/太田真三)
長嶋茂雄さんが病に倒れるたびに関係が変わった「長嶋家」の長き闘い 喪主を務めた次女・三奈さんは献身的な看護を続けてきた
週刊ポスト
6月9日、ご成婚記念日を迎えた天皇陛下と雅子さま(JMPA)
【6月9日はご成婚記念日】天皇陛下と雅子さま「32年の変わらぬ愛」公務でもプライベートでも“隣同士”、おふたりの軌跡を振り返る
女性セブン
(インスタグラムより)
「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画…直後に入院した海外の20代女性インフルエンサー、莫大な収入と引き換えに不調を抱えながらも新たなチャレンジに意欲
NEWSポストセブン
中国・エリート医師の乱倫行為は世界中のメディアが驚愕した(HPより、右の写真は現在削除済み)
《“度を超えた不倫”で中国共産党除名》同棲、妊娠、中絶…超エリート医師の妻が暴露した乱倫行為「感情がコントロールできず、麻酔をかけた患者を40分放置」
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト