東京では連日数十人の新規感染者が確認され、感染拡大が再び懸念される状況のまま、夏に突入しようとしている。すでに気温が30度を超える日もあり、マスクをして外出するのは暑苦しく感じる。これからさらに気温が上がっていけば、熱中症になるのではないかという不安が頭をもたげてくる。
実際に、中国では学校の体育の授業でマスクをつけたまま運動をさせられた生徒が死亡する事故が相次いでいるという。
厚労省が各自治体に周知した「令和2年度の熱中症予防行動の留意点について」によると、〈夏期の気温・湿度が高い中でマスクを着用すると、熱中症のリスクが高くなるおそれがあります。このため、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、熱中症のリスクを考慮し、マスクをはずすようにしましょう〉としている。
日本の新型コロナ感染による死者数は956人で(6月26日時点)、一方、熱中症の死亡者数は、厚労省の最新統計によると2018年で1581人だ。ただ、2018年は猛暑で、例年になく熱中症の死者が多く、通常は500~1000人前後である。熱中症の死者のおよそ8割を65歳以上の高齢者が占めている。単純に死者数と年齢層を比べれば、新型コロナ感染と熱中症は、日本人にとってほぼ同じくらいのリスクと言える。
そのなかで、どちらに重きを置き、どう行動するのが正解か。大阪府監察医で千葉科学大学危機管理学部の黒木尚長教授に訊いたところ、意外な回答が返ってきた。
「マスクで息苦しくなったり気分が悪くなったりするのは、(体温上昇によりさまざまな症状を引き起こす)熱中症ではなく、呼気に含まれる二酸化炭素(炭酸ガス)がマスク内に溜まって、それを吸い込むことで起きる『高炭酸ガス血症』であるケースのほうが多いと考えられます。いわば二酸化炭素中毒で、血中の二酸化炭素濃度が高くなり、これが重篤化すると呼吸困難や昏睡を引き起こします。血液が酸性になったために致死性不整脈を起こし、急死することすらあります」