【書評】『才女の運命 男たちの名声の陰で』/インゲ・シュテファン・著 松永美穂・訳/フィルムアート社/2000円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
日本でも「内助の功」という言葉は、女性への最大限のほめ言葉とされる。社会的に活躍する夫の陰で家事や育児をこなし、時には秘書やマネージャー役もつとめる“理想の妻”。「ウチの家内もそのタイプかな」と思っている男性には、ぜひ本書をおすすめしたい。
ここで取り上げられているのは、マルクスやアインシュタインなど偉人の妻だ。賢妻という以外、ほとんど知られていない彼女たちだが、実は子ども時代からいろいろな能力を発揮し、とくに父親からは将来を期待された才人だった。夫になる男性も、そんな才能にひかれて彼女にプロポーズする。
しかし、いったん結婚すると対等な関係は一変する。作曲家のシューマンは、音楽家として活躍していたクララと結婚するとき、今後は自分の姓を名乗るように勧め、その後も妻のコンサート成功に喜ぼうとしない。著者は言う。「成功した妻への嫉妬、自分がダメになってしまうのではないかという不安、昔ながらの男女の役割にはまらないことから生じる葛藤、妻への依存……。」それでもクララは演奏を続けるが、その精神は次第に不安定になっていく。