【著者に聞け】三砂ちづるさん/『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』/ミシマ社/1700円
【本の内容】
妊娠、出産など母子保健の研究をしている三砂(みさご)さんが、恋愛、子育て、更年期、生死などについて考えたことを、やさしい言葉でつづっている。「献身できる人間でありたい」「還暦を超えたら楽しい」「叱られると自分の一部が死ぬ」など、自身の経験からつむぎ出された言葉たちは、読む人に生きるための知恵を授け、温かな気持ちにさせてくれる。
芸能人の不倫が激しく攻撃される昨今の風潮に、三砂ちづるさんは違和感を覚えるという。
「結婚とか一夫一婦制は、私たちの長い歴史の中で、これがいちばんうまくいくシステムだろうと選び取ってきた幻想なんです。だから、現実にはそこに収まらないことをやってしまう。それで悩んだり、苦しんだりするわけです」
不倫で人を傷つけるのはよくないけれど、人間は自分を含めてみんなだらしないし、いろいろな感情を抱えて生きている。攻撃している人は、自分が人生で間違うことなく生きてきたのか、胸に手を当てて考えてみるといいと話す。
とはいえ、女子大で教鞭を執る三砂さんは学生から相談を受ける機会も多く、若い女性に手を出す中年男性たちには、「許し方という本だけど、許せない」と憤る。
本書では介護や看取りについても触れられている。人に何かしてもらうのを期待するより、できることを人にやってあげるほうが幸せになれると三砂さん。
「今は介護も看取りも大変という話しか聞かないけど、献身できる人がいるのが幸せなんですよ。それだけ濃い人間関係を築けたということですから」
介護する人、看取る人は、その人や家族、親戚などから選ばれた人なのだ。戦前の日本では、お嫁さんが家族の介護や看取りをするのが当たり前だった。戦後はそんな家父長制の考え方が否定された。
「それはいいのですが、封建的なものを捨てるとき、人に献身したいという心のありようまで捨ててしまった気がするんです」
三砂さんはこの本で、戦後にまとめて捨ててしまったものの中から、やはり大事なものや人間が長年培ってきた知恵を拾い上げ、その輝きを教えてくれる。人は誰でも間違える。どうせ私が悪い、私なんかダメと思わずに、今の自分を許していい状態にすることが大切とアドバイスする。
「赤ちゃんが、生まれてきてよかったと思える母親をつくりたいから妊娠、出産にこだわるんです。受け止めてもらえた感覚がある人は、自分の存在を否定しない心の根っこを与えられます。人間は何かやったから愛でられるものではなく、生きているだけで素晴らしくて、愛でられるものなんですよ」
※女性セブン2020年7月9日号