「長男ひとりですべての遺産を相続するのが原則」とされる家督制度は1947年に廃止されたものの、70年余り経ったいまでもこの考え方は根強く残っているという。この旧時代的な価値観が原因となって、相続トラブルに発展するケースも少なくない。
ある家庭で起きたこんな事例を紹介しよう。
夫がすでに他界している80代の母。彼女の資産は、土地(自宅)1億円と預貯金5000万円で、相続人として63才の長女(別居)、60才の長男(母と同居)がいる。生前、母は「財産は子供2人で均等に分けるように」と言っていたため、長男と長女は現金を半分に分け、土地は2分の1ずつ共有という形で相続しようと考えた。
しかし、長男は遺産分割の過程で「小規模宅地等の特例」のメリットに気づく。これは、「親族が同居している場合」など一定の要件を満たせば、宅地の相続税の評価額が8割減になるという制度だ。つまり、母と同居していた長男のみが実家を相続すれば、相続税が激減するのだ。
具体的には、長男が土地をすべて相続すれば、相続税は少なくなる。しかし、長男と長女が半分ずつ相続した場合は、長男が相続する部分だけ8割減で、長女が相続する部分は通常通りの評価額になり、相続税は高くなる。実家を共有財産にすることで相続税が大幅に異なる場合が多くあるのだ。
そこで、長男は「自分がひとりで実家を相続し、現金はすべて長女に渡す」と提案したが、長女は猛反発。これを機に関係は悪化、そのまま修復できていない。「小規模宅地等の特例」には大きなメリットがある一方で、このようにトラブルのもとにもなるのだ。
また、今回は子供の年齢も争いのもととなったようだ。
相続のコーディネート会社「夢相続」の曽根恵子さんが話す。
「長男の上に長女がいる場合はトラブルになりやすい。生まれた順番を気にする人は多いのです。さらに、父の死後、長男が母と同居して介護している場合、長男がほかのきょうだいの知らないところで母の財産を使い込んでしまってトラブルに発展するケースもあります。トラブルを避けるためには、親の介護が必要な状態になったら、預金などをきょうだい間でオープンにして、何に使ったのか情報共有をするとよいでしょう」
※女性セブン2020年7月9日号