きょうだい間での相続トラブルは、できれば避けたいところだが、なかなか難しい部分も多い。特に、誰が親の介護をしたか”という問題が絡むと複雑になりやすい。
たとえば、長男が親の介護を背負ったにもかかわらず、きょうだいに均一に相続させることで発生するトラブルもある。次のケースを見てみよう。
自宅と賃貸アパートを保有する90代の母(父はすでに他界)には3人の子供がいる。60代の長男夫婦(母と同居)と50代の次男(別居)、50代の長女(別居)だ。
長男の妻は介護のためにパートを辞め、5年もの間、生活のかなりの時間を介護に割いてきた。
母は賃貸アパートを保有していたため、その管理は長男が担当。家賃収入は入ってくるが、固定資産税の支払いに加えて、古いアパートだったため修繕費がかさみ、現金はあまり手元に残らず、むしろ持ち出しになっていたほどだったという。
そのため、母は認知症が進む前に遺言書を作成し、長男に多めに財産を残そうと考えていた。しかし、それを知った次男と長女が「家賃収入もあるのに、兄さんだけずるい!」と騒ぎ始めたのだ。結局、長男が折れて、遺言書には不動産をすべて売却し、遺産を3等分にすると書いた。介護を一手に担ってきた長男の妻は、「遠方に住んでいるからという理由で、お母さんのことは私に任せきりだったくせに!」と、次男と長女に対して怒りが収まらないという。
この事例では、介護を担った長男の妻の懐には一銭も入ることはなかったが、昨年から新たに、このような嫁の苦労が多少は報われる制度ができた。それが「特別の寄与の制度」だ。これは、相続人ではない人であっても、無償で介護すれば、それが「寄与分」として認められ、相続人に対して金銭を請求できるというものだ。これまでは、長男の妻が長年親の介護を担当しても遺産を相続することはできなかったが、「特別の寄与の制度」によって、ほかのきょうだいに「介護した分、私にも金銭をください」と求めることができるのだ。
仮に長女や次女の夫が介護を担当した場合は、その夫にも当てはまる。相続のコーディネート会社「夢相続」の曽根恵子さんが話す。
「長男だから、家や財産を優先的に相続するという考え方は、親子ともに改める必要があります。日本人の家に対する考え方は古く、家を守って次の代に受け継がなければという意識が強い。でも、いまの世の中でそれは現実的ではありません。自分たちが快適に暮らせるよう、時代に合った相続の形を考えるときに来ているのです」
故人の思いも大切だが、それ以上に大切なのはいま、生きている人の生活だ。そう考えれば、「長男に全財産を」という古い慣習は、消えていくのが必然なのかもしれない。
※女性セブン2020年7月9日号