「まだ先のことだと思っていたけど、新型コロナの恐怖を感じて遺言書を書いてみたんです。今年から自筆だけでなくワープロ打ちも認められると聞いたので。ノートパソコンを開き、参考書を見ながら作りました。中身には満足していたのですが、息子のすすめで行政書士に内容を確認してもらったらミスだらけで…。『せっかくの遺言が無効になるところでしたよ』と言われました」
都内在住の高橋和子さん(72才)は、そう苦笑いするが、今後、高橋さんのような人が増えるかもしれない。
いま、相続トラブルを回避するため、遺言の制度が大きく変化している。
遺言には、高橋さんのように手書きで作る「自筆証書遺言」と、全国約300か所の公証役場で公証人によって作られる「公正証書遺言」、そして内容を秘密にしたまま公証人に遺言の存在を証明してもらう「秘密証書遺言」の3種類がある。
今年1月13日には、そのうち「自筆証書遺言」の作成方式が緩和された。
これまで自筆証書遺言はすべて手書きしなければならなかったが、法改正により一部をパソコンやワープロで作成することが認められたのだ。相続対策を行う夢相続代表の曽根恵子さんが指摘する。
「弊社がご相談を受けているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言が半々で、秘密証書遺言はほとんどありません。自筆証書遺言は自分で作るため料金はかかりません。公正証書遺言は遺産額に応じて作成手数料が5000円(遺産額100万円以下)から4万3000円(同5000万円超1億円以下)かかります」
厚生労働省によると、平成30年に作成された公正証書遺言は約11万件。同年に家庭裁判所が確認した自筆証書遺言は約1万7000件とされる。死亡者は約136万人のため、1割ほどが遺言を作成している計算になる。
曽根さんがサポートしてきたなかでは、遺言を作成するのは「70代の女性」が目立つという。一般社団法人東京都不動産相続センター代表理事で、司法書士の中島美樹さんもこう指摘する。
「70代くらいで認知症が心配になってきたり、夫が先立ったときに相続の大変さを実感して、きちんと遺言書を残したいと考える人が多いようです」