端正な顔立ちに似合わぬ言葉の激烈さで各国の度肝を抜く北朝鮮の女帝・金与正氏。いったい彼女は何者なのか。新著『金正恩の機密ファイル』(小学館新書)が話題を呼ぶ東京新聞編集委員の城内康伸氏がそのベールを暴く。(敬称略)
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2年前の和解・交流ムードがウソだったかのように、北朝鮮が最近、韓国への敵対姿勢をエスカレートさせている。その急先鋒に立つのが、金正恩朝鮮労働党委員長を補佐する実妹の金与正党第1副部長だ。南北融和の象徴だった北朝鮮南西部・開城にある共同連絡事務所の爆破(6月16日)を予告し、文在寅政権を罵倒するなど、「強面の女」としてにわかに存在感を増している。
与正は兄の正恩と同じく、金正日総書記と在日朝鮮人帰国者の高ヨンヒとの間に生まれた。米政府が2017年に人権侵害に関与したとして制裁対象に指定した際に作成したリストによれば、生年月日は1989年9月26日。ただ、韓国統一部は1988年生まれとしている。いずれにせよ、30歳を過ぎたばかりだ。
北朝鮮事情に詳しい消息筋によると既婚のようだ。しかし、韓国メディアがかつて報じた、「夫は正恩の側近である崔竜海最高人民会議常任委員長の次男」という説は誤りらしい。「部隊長クラスの軍人」という未確認情報もある。
与正は父親の寵愛を受けたという。脱北した元北朝鮮高官は「公主班というのがあり、与正の世話を焼いていた」と振り返る。金王朝のプリンセスとして、何不足なく育ったに違いない。1996年から2000年末ごろまでは、正恩と一緒にスイス・ベルンに留学した。
北朝鮮メディアに最初に姿を現わしたのは金正日が2011年12月に死亡した直後のこと。葬儀で正恩の後ろに喪服を着て立っている写真が公開された。翌2012年11月には、正恩、叔母の金慶喜と白馬に乗った写真を朝鮮中央テレビが放映。王朝の一員であることを内外に印象づけたが、いずれも名前は明らかにされなかった。