健康診断や人間ドックで受けられる検査が病気の早期発見に繋がる一方で、米国をはじめとする海外では、専門家によって検査に伴う「過剰診断、過剰治療」への警鐘が鳴らされていることも知っておきたい。『週刊ポストGOLD 正しい健康診断』の中で、医療経済ジャーナリストの室井一辰氏は次のように解説している。
「2012年に米国で始まった『チュージング・ワイズリー(“賢く選ぼう”の意。以下CW)』と呼ばれる運動があります。各専門医学会が検証の上、無駄だと考えられる医療の項目を公表しています。そこには“検査の無駄”を指摘した項目が多い。過剰な検査が、不要な治療・投薬につながり、患者には費用や時間の負担が重くのしかかる。だから、CWでは無症状な人やリスクが低い人への検査はできる限り絞るように提言しています」
以下、室井氏の解説とともにみていこう。
●胸部X線検査(レントゲン)
米国外科学会は「特別な病歴や身体検査で異常がない外来患者に、入院時や術前の胸部X線は避けるべき」としている。
「X線検査をしてもわずか2%しか治療方針に影響しないというデータがあります。同学会は、身体検査で心臓や肺の疾病が疑われる場合など、状況を限って検査を行なうべきだとしています」(室井氏)
●PSA検査
検査によって前立腺がんでの死亡を減らせるというデータがないことから、米国臨床腫瘍学会、米国老年医学会、米国家庭医学会は「検診目的でPSA検査を行なうべきではない」という方針を示している。
●PET検査
少量の放射性医薬品を注射し、横になってPET(陽電子放出断層撮影)装置のなかに入って全身を撮影する検査だが、米国医学・分子イメージング学会は「健康な人のがん検診に使うべきではない」とする。
「健康な人からPETでがんが発見される確率が極端に低いためです。がんが確認された後の重症度の判定などに用いるための検査だと指摘されています」(室井氏)
検査はたくさん受けたほうが安心──そんな日本の“常識”と全く違う判断基準が生まれている。
※週刊ポスト2020年7月1日号増刊『週刊ポストGOLD 正しい健康診断』より