家での時間が増えている今、良書への関心も高まっているものの、どんな本を読むべきなのか。ブックレビューを多く担当するライターの温水ゆかりさんが選ぶ、新刊書籍4選をヒントにしたい。
◆『じんかん』 今村翔吾/講談社/1900円
今夏の直木賞候補の注目作。主家乗っ取り、将軍暗殺などで戦国時代の三悪人とされる松永(弾正)久秀。彼の生涯を信長が夜を徹して語るという夜伽の物語構造にあっという間に引き込まれる。極貧の生家、弟との絆、追いはぎ団の少年首領との出会い、何のために生まれてきたのかという疑問、欲の化身である武士などいらぬとした三好元長への共鳴。いっき読み必至の娯楽作。
◆『ポップス大作戦』 武田花/文藝春秋/1600円
レトロな町や路地裏の猫をモノクロで撮ってきた木村伊兵衛賞作家の花さん。ふいに自分に飽き「カラー写真をやってみよう」と決める。真っ赤な薔薇と水色の空、「わ、お父ちゃん」(故武田泰淳)と叫んでしまったインカ風の仮面、廃屋に巡らされた真っ赤なテープ、母(故武田百合子)を丸坊主に剃り上げた思い出。色の胎内を泳いでいるかのような浮遊感で見る者も旅する。
◆『戦後日本政治の総括』 田原総一朗/岩波書店/1900円
テレビの勃興期から不倫の部屋が公安の監視下にあった恥辱までを書いた自伝『塀の上を走れ』。その書を政治に特化し、ブルドーザー田中角栄、タカ派中曽根康弘、新自由主義の小泉純一郎や安倍晋三までの流れを鳥瞰で描く。政治は理念ではなく政局(損得)で動く。野党に興味はないと公言する政局フェチの著者の証言は貴重だが、同時にもっと喝を入れて欲しかったとの思いも。
◆『鴨川食堂もてなし』 柏井壽/小学館文庫/650円
ただの民家にしか見えない京都の「鴨川食堂」とその奥の「鴨川探偵事務所」。料理雑誌に出した1行広告「食捜します」に目を留め、今日も味の迷い人が訪ねてくる。認知症の入った父が突然言い出した「テキ」とは? 離婚した初老の男が思い出のおやつの味と共に探し出したい女性はどこに? 元刑事の料理人・鴨川流の推理と料理の腕が冴える味の人情ミステリーを6話収録。
※女性セブン2020年7月16日号