コロナ禍による一斉休校が明けて約1か月、子供の学びを取り巻く問題点が次々と浮上した。あなたの大切な子や孫は、いま、充分な教育を受けられているだろうか。それ以前に、笑顔で学校に通えているだろうか。元文科官僚の前川喜平さん(65才)と、“校則のない学校”として知られる世田谷区立桜丘中学の前校長・西郷孝彦さん(66才)が、それぞれの視点から、“学習権”を巡る大問題を詳らかにする。(前編)
数年前に、西郷孝彦さんが校長を務めていた東京・世田谷区立桜丘中学校での取り組みを知り、いつか訪れたいと考えていた前川喜平さん。残念ながら、西郷さんの現役時代には叶わなかったが、ようやく初対面を果たした。
前川:桜丘中学校は、校則もなければ定期テストもない。服装も髪形も、化粧も自由なんですね。公立中学校でそんなことができるのかと、興味津々でした。
西郷:でも、最初から「校則をなくそう」とか、「定期テストを廃止しよう」という目標を掲げていたわけではないんです。目の前に困っている子がいて、「問題を解決するにはどうしたらいいだろう」と生徒と一緒になって考えていったら、結果として校則がなくなったんです。
前川:元文科省の人間が言うのもなんですが、私は日本中の中学校が、桜丘中学校のようになればいいと思います。なぜなら、桜丘中の子供たちは、がんじがらめに縛られていない分、自分たちで物事を考えていますよね。“自分の頭で考えること”が、人としていちばん大事なことだと思うのですが、残念ながら、いまの世の中はそれとは逆に向かっている。それがコロナ禍で浮き彫りになったと思います。
◆安倍首相の休校要請にはエビデンスがない
──2月27日、安倍晋三首相が全国の公立小・中・高等学校に対して、臨時の休校要請を出しました。専門家の見解ではなく、独断であると明言していました。
前川:実はあの休校要請には、2つの大きな問題があります。1つは、コロナ対策として休校にすることが有効だというエビデンスが全くないことです。日本小児科学会が「小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状」(5月20日)を発表していますが、そこには「学校や保育所におけるクラスターはないか、あるとしても極めて稀と考えられる」「小児では成人と比べて軽症で、死亡例も殆どない」とはっきり書かれています。「学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しい」とさえある。
闇雲に休校にしたせいで、子供たちに「学校は怖いところだ」という恐怖心を植え付けてしまいました。
もう1つは、本来、休校の権限は、地方自治体の教育委員会にあったということです。休校を決めるのは、首相でも自治体の首長でもありません。首相の要請には、法的根拠がない。それなのに、いまだに陽性患者が1人も出ていない小笠原諸島の学校までもが、休校になってしまいました。
西郷先生が退職直前にコロナ休校に突入しましたが、桜丘中学校ではどんな措置をとりましたか?