会食でコロナ感染、誰にでも起こりうる事態である。そしてその場に居合わせないとなかなか想像しにくい問題もある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。
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東京都には過去最高の280名以上の新型コロナウイルスの陽性者数が報じられても、どことなく弛緩した空気が漂っている。一度はテレワークを導入したにも関わらず、「不公平感」や「役員の一声」を理由に「全員出社」に戻してしまった企業も多い。
PCR検査数の分母が増えたことも、弛緩した空気になる理由のひとつだろう。加藤厚生労働大臣は4月29日の参議院予算委員会で「発熱4日以降というのは検査要件ではない」と言い放ち、各所から華々しく顰蹙(ひんしゅく)を飼った。だが本当にPCRは簡単に受けられるようになったのだろうか──。
結論から言うと、確かに以前よりもPCR検査は受けやすくなった。だが、陽性者の取りこぼしは厳としてある。例えば以下のような事例だ。
7月上旬、会社員のAさん(40代・女性)は出席した会食で新型コロナウイルスに感染した。その日は一列4名でテーブルを介しての対面で8名での会食だった。Aさんの左隣には「顔見知り程度」のX氏が座り、右隣にはX氏と共通の知人のB氏が座った。左からX氏、Aさん、Bさんという並び順である。
会食中、X氏はAさん越しに旧知のBさんにマスクなしで話しかける。しかも声は大きめ。古き良き時代なら「元気があってよろしい」となったかもしれないが、New Normalではホメられた行動様式ではない。
4日後(接触5日目)、AさんとBさんは38℃台の熱を発した。Aさんは「風邪は年に一度、ひくかひかないか。生まれてこの方、インフルエンザにかかったこともない」というほどの健康優良児にも関わらず、だ。
Aさんの熱は翌日(接触6日目)には平熱に下がったものの、そこで「昨日Bさんにも熱が出た」という話を聞く。「もしや」と思い、翌朝(接触7日目)かかりつけのクリニックを受診してPCR検査の希望を伝えると、即、紹介状を発行してくれ、そのまま近所の検査スポットへ。ちょうど検査スポットが空いている時間帯だったこともあり、検査はサクッと完了。昼には会社に状況を伝えて、自宅の納戸で自己隔離に入った。
Aさんのもとに病院から「陽性」の連絡が入ったのは検査の2日後(接触9日目)。その日のうちに保健所からも連絡が入り、その後の流れについて説明を受けたという。
「会食の参加者にも逐次状況は連絡していました。ところが、私とBさんが検査を受けた頃、実はX氏が接触2日目から数日間、発熱していたことが発覚。しかも本人はもう症状が治まっていることを理由に検査を受けるつもりもないと仰っしゃり、会食参加者からの『検査して』というお願いもことごとくスルーしてました」
X氏、Aさん、Bさん以外の5名は無症状だったが「前後数日で、思い当たる会食はその日だけ」。しかも会食は、もっとも感染力が強いと言われる(X氏の)発症前日だった。可視化された事象からすると、X氏が感染経路となった可能性は高い。そこで無症状の会食参加者も「濃厚接触者に当たるはず」とPCR検査を受けようとしたが、そこには思わぬ障壁が立ちはだかった。
「それぞれ地域の保健所に問い合わせたところ、『濃厚接触者』の定義は陽性者の発症からさかのぼって2日以内に接触した人だというんです。接触2日目に発熱したというX氏はその定義に当てはまりますが、検査を受けてくれないから陽性者としてみなされないんです」