国立感染症研究所や米疾病対策センターといった最前線の施設で研鑽を重ねたウイルス研究者で、国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長の西村秀一医師の目には、現在の日本のコロナ対策が「おかしなことだらけ」に見えるという。
感染者の咳でウイルスが1万個飛んだと仮定しても、ほとんどは空気の流れに乗って散らばり、机などに落下するのは1センチ四方あたりわずか数個なのだという。こうしたウイルスの特性から考えると、感染者の出ていない学校で毎日机を消毒したり、呼吸をしないためウイルスを排出しない遺体を扱う葬儀業者が防護服を着たりすることなどに意味はないと同氏は論じる。
現在の「1億総過剰対策」を招いた要因は主要メディアが呼ぶ専門家たちだと西村氏は指摘する。
「本来、専門家は、『具体的なリスク評価』を世に伝える責務があります。咳で床に落ちたウイルス数、それが手につき、どれだけ体内に入るか。東京にエレベーターが何基あり、一日何人使用するか。そのボタンにウイルスが付着しそこから感染する確率はどの程度か。
そうしたリスク評価を概算でも見積もり、世に知らしめる必要がある。しかしテレビに登場する専門家は、『感染する可能性がある』と言うばかり。万一のために、ほとんど可能性のないこともふつうに起きているように話している。大昔の天気予報と同じです。晴れと言って雨より、雨と言って晴れた方がいい」
結果、国民にゼロリスク志向が広がり、無意味な対策に追われている。
「ゼロリスクを求めたら日常生活は送れません。代わりに人と人のつながりが消え、職が失われ、差別まで生まれている。こんなことはもう終わらせるべきです」(同前)
※週刊ポスト2020年7月31日・8月7日号