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ピンピンコロリよりPPHを──医師が考える日本人の死生観

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

 病気に苦しむことなく、元気に長生きして最後は寝付かずに死ぬことを「ピンピンコロリ(PPK)」と呼び、健康寿命の長さをいう。今から約40年前に長野県の医師が提唱し始めたこともあり、全国でも有数の長寿で知られる長野県佐久市には「ぴんころ地蔵」が建立されている。諏訪中央病院名誉院長で長野県茅野市在住の鎌田實医師が、最近、「ピンピンコロリ」から発展して「ピンピンヒラリ」がいいと思っている理由について語る。

 * * *
 昨年暮れ、京都大学で宗教・生命倫理学者のカール・ベッカー特任教授と「生と死の間にあるもの」について語り合った。ベッカー教授は、ターミナルケアや遺族の悲嘆について研究している。

 自分は無宗教だからという日本人も、終末期になると“あっち”のことを考えるというベッカー教授。「“あっち”に意識を向けると、父ちゃんや母ちゃん、あるいは戦死してしまった友人や先輩に会えるかもしれない、という希望が湧いてくるんです」

 たしかに、そうだ。ぼくは緩和ケア病棟を回診しながら、「あの世」を信じている人ほど、上手に「死」を受け入れているように感じてきた。「あの世」は「生」と「死」の間にあるクッションのような役割を果たし、「死」の恐怖を和らげているように思う。

 健康長寿の標語で「PPK(ピンピンコロリ)」というのがあるが、ぼくは最近、PPHがいいと思っている。ピンピン生きて、ヒラリと逝く、そんな生き方だ。「ヒラリ」には、“あっち”もそんなに捨てたもんじゃないという前向きなニュアンスがある。「死」への恐怖を緩和して、「生」を見つめ直す力をくれるような感じもする。

 そんな話をすると、ベッカー教授は「ピンピンヒラリのほうが、日本人の死生観に合っていると思います。鎌田先生が許可をくれるなら、私も使わせていただきます」と笑った。

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