泣きっ面に蜂という言葉があるが、それを現状に合わせて改変するなら「新型コロナにバッタ」だろう。今年に入ってから、アフリカから中東、インドに生息しているサバクトビバッタの大量発生がたびたび報じられてきたが、7月に入っても、指数関数的に増えている。7月3日、国連食糧農業機関(FAO)は、その影響の拡大を報告している。
サバクトビバッタは“世界で最も破壊的な害虫”とも呼ばれている。大量の植物を餌とするからだ。すでに食料として育ててきたものが食い荒らされた地域もあり、1日で3万5000人分の食料を食べるその群れは、1平方kmに最大8000万匹の群れを成す。FAOは、このままバッタの影響が拡大し続けた場合、東アフリカ地域で2500万人が、イエメンでは1700万人が今年、飢餓状態になると警鐘を鳴らしている。
FAOはこのバッタが今後はほかの地域にも飛来し、被害を拡大させるとしている。資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫さんも、バッタの増殖には歯止めをかけられないとみており、中国へ到達する可能性もあると指摘する。
「このバッタはこれまで、ヒマラヤを越えたことがないとされています。バッタは変温動物なので、寒いと体が固まって死んでしまうからです。しかし、中国へ至るルートはほかにもありますし、飛ばなくても、貿易船の積み荷に紛れ込むことも考えられます。実際に、南米のアルゼンチンやパラグアイには、そうやって運ばれたものと思われます」
中国までやってきたら、日本までの距離はほんのわずか。
農水大臣官房政策課食料安全保障室の担当者も、「バッタ問題はわれわれも注目しています。海をまたいで日本に上陸することは簡単ではないと思いますが、飛来した場合を想定する必要があるので注視しています」と危機感を示している。世界的に食料が不足するのはもとより、その品質の劣化も危ぶまれる。
「日本の輸入元国に影響が出た場合は、新型コロナと同じく、食品の質の維持が困難になるでしょう」とは、食品問題評論家の垣田達哉さん。
「日本は中国に玉ねぎの輸入の大部分を依存しています。仮にバッタが玉ねぎを食べないにしても、玉ねぎ畑に大量のバッタが襲来しただけで、傷がつき商品にならないし、どんな病原菌が付いているか不明な段階の玉ねぎを輸入するのもためらわれる。このような間接的な被害を考えると、大きな影響が出ると言わざるを得ません」(垣田さん)
柴田さんが危惧するのは、日本の食卓にも欠かせなくなった、小麦だ。
「アメリカの農務省は世界の農作物について、8年連続の豊作という見込みを示していますが、バッタの被害は考慮されていません。実際には、このバッタにやられると穀物の収穫量は3割から5割減るとみられています。中国が食料を自給できなくなり、それを輸入で補おうとすると、世界の食料のバランスが一気に崩れます。
中国に次ぐ小麦生産国で、小麦を1億トン以上生産しているインドでも、国内需要に応えるので精一杯でしょう。すると、日本にとって輸入先として残るのは小麦生産量第3位のロシアくらいになりますが、ロシアは輸出規制の姿勢を崩さない。小麦危機の可能性はあります」(前出・柴田さん)
新型コロナにバッタ。慣れ親しんだ味、そして安全が保証される、そんな当たり前の日本の食卓が失われる日が確実に近づいている。
※女性セブン2020年7月30日・8月6日号