近年相談が急増しているSNSトラブル。もし自分や知人がそのトラブルに巻き込まれてしまったら…? いわれのない誹謗中傷に対してどう対応したらよいのだろう。神奈川県のパート・Aさん(58才)の孫もそんなトラブルの渦中にあるという。身内として頭を悩ませるAさんの相談に弁護士の竹下正己氏が回答した。
【相談】
孫はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス。Facebook、Twitter、LINEなど)をよく利用していて、自分の写真も投稿していますが、数か月前から同一人物と思われる人から嫌がらせのコメントをたくさん書き込まれるようになりました。
最初は無視していたのですが、誹謗中傷がエスカレートし、孫の写真をほかのSNSに勝手に流したりするので困っています。あまりにもひどいので、犯人を特定したいのですが、どうすればよいですか。
【回答】
SNSは、ウェブ上で社会的ネットワークを構築可能にするサービスですが、参加者を限定する招待型でなければ、ネットワークに登録している人は誰でも投稿できます。その場合、投稿は一種のペンネームであるハンドルネームで行われるのが普通で、投稿者の本名などはわかりません。特定できない人から中傷や嫌がらせの投稿を受けても、抗議したり中止を要求することはできないので泣き寝入りになりがちです。
しかし、インターネットを介して流通する情報で権利侵害が生じたことが明らかな場合、被害者は、加害者に対する損害賠償請求などの権利行使をするために特定が必要なときには、SNSサイトの運営業者に対して、氏名、住所、その他の発信者に関する情報の開示を請求できます。
開示請求の書式は、SNSサイトの公式ホームページから確認できます。お孫さんも投稿者のハンドルネームと投稿記事を特定して、SNSサイトの運営業者に発信者情報の開示を請求できます。なお、SNSサイトの運営業者がわからなくても、ネット上で利用できる「Who is」というサービスで検索できます。
サイト運営業者が、投稿者の本名など、本人を直接特定できる情報を知らない場合でも、投稿者が利用したIPアドレス、投稿の発信時間がわかるタイムスタンプ、投稿者がSNSのサイトに至るまでに経由したプロバイダーの開示を受けられます。
次に、この経由プロバイダーに対して、IPアドレスとタイムスタンプに基づき、発信者の氏名等の情報を開示するように請求することができます。開示請求を受けたサイト運営業者は、発信者に開示の可否について意見聴取します。運営業者は開示請求を拒否しても、開示請求者の損害について故意または重過失がない限り免責されます。
そのため、発信者が同意しない場合には、運営業者も発信者情報の開示に応じてくれず、やむなく裁判で開示を求めざるを得ない場合もあります。とはいえ、名誉毀損や著作権侵害などの権利侵害があり、正当化できないことが明らかな投稿の場合には開示するでしょうし、被害の拡大を防ぐため投稿記事の削除も期待できます。そこで、困っている事情を詳細に説明して開示請求することが必要です。
発信者情報の開示の制限は、表現・言論の自由の観点からはやむを得ない面もありますが、現在、中傷や事実無根の投稿による弊害が指摘され、発信者情報の開示手続きの簡便化が検討されています。
※女性セブン2020年7月30日・8月6日号